お試し異世界転生で公爵令嬢になりラブラブいちゃいちゃドキドキしたい

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 ときめく恋がしたあーい。  私は胸の内で叫んだ。剣道一筋で天才少女とも呼ばれてたが、いまごろから、ラブラブいちゃいちゃでドキドキする体験をしてないのを物足りなく思う。  そのとき、どこからか声がした。 「手羅城小百合(てらじょう さゆり)さんですか。異世界転生のご案内にまいりました」 「また来たか。私も、そろそろだ。でも、あと一回の人生があるのかねー」  あまり現実的ではないが、そういう夢を見るのはかまわないと思ってもいる。 「いま小百合さんにぴったりの異世界がありますので。お試しで異世界転生を勧誘しているわけです」  お試しなら、異世界転生を体験するのも面白い。若いころに取捨選択して消えた、もう一つの私の生き方。ラブラブいちゃいちゃのドキドキを体験したい。     ・  私の意識が宙に浮く。  たどり着いたのは、転生相手の、ソファレン公爵家の令嬢カレンが山道から森の入口へ着いたところ。彼女はふわりとウエーブのかかる亜麻色の長い髪。澄んだ青い目をしたお人形みたいで、これからの私の姿に満足もする。 「あれっ、なんなんだ」  私が転生するとカレンは小さく叫んだ。日本語が通じて良かった。脳内では言語より意識で交流できるらしい。AIでは無理なこと。  さっそく自己紹介をしよう。 「手羅城小百合と申します。わけがあって異世界転生をお試し体験させてもらいます」 (私の中で声が。いや。これは、聖女が言っていた背後霊の応援か)  なるほど。同じ脳内に意識が共存するので、私はカレンの思考も分かった。 ~そうかもしれない。百十余年いきてきて、不思議な声に導かれたのよ。ここではセイジョと呼ぶかも~ 「それなら力を貸して。急いで」  山歩き用の杖を持って言う。やはり令嬢、威張った口調だが、カレンの言う通り変な魔物が迫っていた。  木の枝が人間のように立って、近づく。(ほうき)で掃き退けるようにカレンを追い返すように攻撃してきた。 「魔女の住む森なのよ。こうして追い返すんだわ」  木の枝を避けて、あっちこっち逃げ回る。 ~私を剣道2段の天才剣士と知っての所業か~  カレンの身体を借りて杖を振り回す。やはり、素人と剣道2段では違う杖さばきだ。若いころのように身体が動く。ま、カレンはまだ18歳らしいから。  木の枝の魔物は、ばさっばさっ、と倒れてゆく。 「みごと。ロメオみたいに強くなった」 ~侯爵の令息だね。今から会いに行くと~  同じ脳内で、いまの状況を確認し合う。カレンは侯爵令息のロミオとの交際を禁じられたらしい。 「この魔女の森を無事に通れば、交際を許してくださると父は申されたから」 ~魔法も使えない娘を。無茶だ。だが安心して。ロメオ様にきっと会える~  そうでないとこまる。ラブラブいちゃいちゃドキドキ作戦のためには勝つしかない。  お互いに相手の意識も取り込みながら、更に森の奥深く歩いて行く。背後霊でも憑依でもかまわない。私は若いころの恋というのを、初めて経験する。  ゆったり流れる熱い思いは、恋しているから。  会いたい、と危険な森へ赴く行動は初めて味わう感情。  危険には近づくな、が剣道の先生は口癖だった。恋も、剣の道を惑わすものとして禁じられていた。  カレンの感情と身体の、恋に跳ねる感覚は新鮮だ。 ~ロメオ様もイケメンだね。ライバルはいたよね~ 「ジュレアン王女様。王家の権力を使い、邪魔しようとしているのよ」  話しているときに騎士の鎧を見つけた。ここで倒れたらしい。魔物の仕業か。箒みたいなお化けよりも強敵がいるようだ。  ともあれカレンとしては戦う武器が欲しかった。 「この剣は護身用に、頂戴しよう」 ~同じ考えだね。というか、頭の中で一人になってる感じ~ 「一心同体だね。いや違うか」 ~別々の人格が共存している。でも聞いたことはある~  昔から読み物では時々ある設定だから、ラノベ好きな人にはお馴染みの展開。  定番通りにチート能力がアップしたカレン。それでも、木陰からでてきた緑の風船みたいな物体が、この辺り全体に広がる。 「アメーバーの巨大お化けよ。本当にいたのだわ」 ~切り刻んでやるわよ~  さっそく剣を横に滑らせて、近づく仮足を切り落とす。切り落とされた部分がプルプル震えて丸まり、甘い匂いと、瑞々しい薄緑の液体が溢れる。 「良い匂い」  仮足の一部をつまんで引っ張ると、思わず液体をすする。爽やかな酸味が身体にしみる。 ~山歩きで喉も乾いていたんだね~ 「うん。これで元気が出るわ」  腕で口元をぬぐう、ちょっとはしたないが、この自然体が私も好きだ。  そうしてる間にも、仮足で包まれてしまった。 「魔女の贈り物かしら。お礼をしなければ」  身の危険より、礼儀を優先する呑気なお嬢さんでもあるらしい。 「魔女様。良い贈り物をありがとう。美味しいー!」 「いまの状況をしらぬか。おめでたいお嬢さんだ」  声がすると、黒いマントの老女が現れた。 「やっと会えたわ。この森を抜けると恋が成就するのよ。出口を知らないかしら」 「恋じゃとな。それより、我が怖くないのか」 「貴族には醜い心の方もおられますわ。魔女様なら悪さはしない」  どこでも、駆け引きで優位になりたい者がいるらしい。 「そうであろう。恋のためか。通行を認めよう」  魔女としては存在へ好意を持たれて悪い気はしないだろう。    するするとアメーバーたちは引き下がる。 「でも、美味しかったねー。お土産で頂戴」  魔女は苦笑いしたが、優しいおばあちゃんの表情になる。 「図々しいお嬢さんだ。兵隊たちに運ばせる」  言うと、先ほどの木の枝たちがアメーバーをまとい、カレンの後に従って歩き出した。  
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