7人が本棚に入れています
本棚に追加
1
青年はソワソワしながら、駅前を行ったり来たりしている。
真冬の木枯らしの中を、寒そうに行ったり来たりしている。
青年はもうかれこれ1時間以上待っている。
凍える手を一生懸命こすりながら待っている。
青年のポケットに指輪が入っていることを、何故だか”私”は知っていた。
その指輪を24回払いのローンで買ったことを、何故だか”私”は知っていた。
女が駆けて来た。
「遅れちゃってごめんね。待ったでしょ?」
「いや、俺も今来たところ。駅でサイフ忘れたのに気づいてダッシュで取りに戻ってた」
特別美男子でも醜男でもないその青年は、そう言ってとびきり優しい笑顔を見せた。
「よかった」
ホッとしたようにそう言った女は、OLになった”私”だった。
最初のコメントを投稿しよう!