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 青年はソワソワしながら、駅前を行ったり来たりしている。  真冬の木枯らしの中を、寒そうに行ったり来たりしている。  青年はもうかれこれ1時間以上待っている。  凍える手を一生懸命こすりながら待っている。  青年のポケットに指輪が入っていることを、何故だか”私”は知っていた。  その指輪を24回払いのローンで買ったことを、何故だか”私”は知っていた。  女が駆けて来た。 「遅れちゃってごめんね。待ったでしょ?」 「いや、俺も今来たところ。駅でサイフ忘れたのに気づいてダッシュで取りに戻ってた」  特別美男子でも醜男でもないその青年は、そう言ってとびきり優しい笑顔を見せた。 「よかった」  ホッとしたようにそう言った女は、OLになった”私”だった。
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