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「え!?」
初めて目撃した竜にルクレツィアは思わず小さな叫び声を上げる。
この世界には、人間以外の種族もたくさん住んでいてエルフはたまに見かけるけれど、竜はとても珍しい。
ルクレツィアの住むこの国は人間が統べる魔術師の国だが、世界には獣人の国や魚人達の地底湖の国もあるらしい。
その中でも竜は魔族にカテゴライズされる種族で、人間では辿り着けないような瘴気に包まれた未開の地に竜の国があるという。なんでも遥か昔、何千年も昔の時代で魔王が統べていた国だとか。
そんな中、竜と貴重な出会いを果たしたルクレツィアは驚きのあまり固まっていたが、すぐに竜が怪我していることを思い出して赤子ほどの大きさの竜を助けてやろうと手を伸ばした。
ベランダの塀に足をかけて、恐ろしいので下を見ないように黒竜に手を伸ばす。
すると竜の目がパチリと開いて、真っ黒な瞳がルクレツィアの姿を映した。
グル…、と小さな唸り声をあげる竜。
「手当てしてあげるだけだから…降りておいでよ」
ルクレツィアが両手を伸ばして声を掛けるが、竜は上体を起こすと彼女の手が届かないところに身を寄せた。
腕が痺れてきたのを感じて、ルクレツィアは一度部屋に戻ろうと視線を下に向けた時、ぐらりとバランスが崩れてルクレツィアの体はベランダの向こう側へと傾いた。
ここは二階だ。まだ小さなルクレツィアが下に落ちたら、怪我だけでは済まないだろう。
ルクレツィアの頭からサァッと血の気が引き、何処かへ掴まろうと腕をバタつかせるが届かず…。
いよいよ体の半分がベランダの塀から向こう側へ出た時に、何かがぱしりとルクレツィアの腕を掴んでこれ以上傾くのを阻止してくれた。
「あぶないぞ!」
ルクレツィアがガクガクと震えながら腕の先に目をやると、そこには見知らぬ少年がいた。焦った表情で木の枝の上から身を乗り出してルクレツィアの腕を掴んでいる。
「た、たすけ…」
ルクレツィアの怯える声に少年は仕方なさそうな様子で彼女の腕を持ち上げるように引き寄せて、あっという間にルクレツィアを抱きかかえてしまった。
そして身軽に木の枝から降りると、ベランダでルクレツィアを下ろす。片腕で自分と同じくらいの身長のルクレツィアを軽々と持ち上げるなんて凄い力だ。
ルクレツィアは驚きのあまり、落ちそうになっていた恐怖はすっかり何処かへ飛んでいき、目の前に立つ少年に目を向ける。
黒髪に黒い瞳の少年は至る所に怪我をしているらしく、血が滴っている。
「もしかして、君は…」
ルクレツィアは確信していた。
「さっきの黒い竜?」
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