壱 父と娘

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「お前も寝るなら隣で寝れば?」  ずっと立ったままのルクレツィアにヴィレンが言うと、ルクレツィアはポカンと呆気に取られた顔をした後に表情を引き締めてベッドの上に上がってきた。 「私のベッドなんですけど」 「広いんだし、別にいいだろ」  悪びれもないヴィレンの態度にルクレツィアは呆れてため息をつき、そして彼の隣に寝転ぶ。  なんとなく、二人は天井を見上げながらお互いの身の上話しをポツリポツリと語って聞かせた。  ヴィレンは竜の国、魔王国からやって来たらしく、父親と大喧嘩をしたのでそのまま家出したらしい。今は気ままに旅をしているのだとか。  怪我は父親との喧嘩で出来たものらしく、話を聞いていたルクレツィアはどれだけ激しい喧嘩だったんだ…と、竜の凄さを実感した。  ルクレツィアも少しだけ自分のことを話した。 「ふぅん、ノーマンね…」  ヴィレンは興味なさそうに呟く。 「人間って差別が好きだよなぁ」 「…そうなのかな…?」  ルクレツィアは相槌を打ちながら考える。そもそも、人を貴族と平民に分けていることも差別の一種なのだろう。 「…そうかも…」  そう続けて、ルクレツィアは悲しい気持ちになる。貴族のくせに自分は、魔法を使えない…。  暫く沈黙が続き、ルクレツィアが何となくそわそわとしていたらヴィレンが突然上体を起こした。 「……お前、この国が嫌なら俺と一緒に来る?」  そして、ルクレツィアを見下ろしながら言う。  ルクレツィアは驚いて、彼女も上体を起こした。 「もう少し他の国を見て回ったら、自分の国に帰るからさ。ルクレツィアも魔王国に来れば?」  ノーマンだろうがなんだろうが魔王国では差別しない、とヴィレンは続けた。  突拍子のない提案にルクレツィアは何も答えられないでいた。 「…まぁ…すぐには決められないか。国を捨てるようなもんだし」  ヴィレンの言葉にルクレツィアは顔を上げる。 「私、行かないわ!」  一瞬でも自分が国を捨ててしまおうかと考えていた事に恐ろしく思った。  自分は誇り高い父の娘だ、クラウベルクの娘だ。それなのに、国を捨てようだなんて…。  ルクレツィアが俯くと、涙が太ももの上に落ちる。 「…あー…」  ヴィレンが困ったように声をあげた。 「悪かったよ…」 「…ヴィレンのせいじゃないの」  泣き虫で弱い自分が嫌いだ。ルクレツィアは涙を拭ってヴィレンを見上げる。 「またどこかで会える?」  ルクレツィアが尋ねると、ヴィレンは「うぅん…」と難しい顔で考えている。 「…手、出して」 「?」  ヴィレンが手のひらを差し出してきたので、ルクレツィアは首を傾げながらもその手を握る。すると、二人が握手した手から光が漏れ出した。  ルクレツィアは驚きながら目の前のヴィレンを見て、さらに目を丸くする。 「ヴィレン! 目が…!」
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