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ヴィレンの黒かった瞳が、まるでルクレツィアと同じ紫色の瞳に変色していたのだ。
「ルクレツィアの魔力を取り込んだからな」
お前と同じ色だ、と、ずいと顔を近付けてきて笑うヴィレン。ルクレツィアは耳を疑った。
「…私にも魔力があるの!?」
魔法が使えないノーマンなのに…と、ルクレツィアの声は思わず大きくなる。
「あぁ、あるぞ。お前の場合は…魔力なしというより、魔法が使えない原因が他にあると思う」
ヴィレンはそこまで言ってから、その原因までは俺には分からないけれど、と締め括る。
ルクレツィアは信じられない気持ちで自身の手のひらを見つめた。無いと思っていた魔力があるのだ、もしかすると…自分も父と同じように魔術師になれるのかもしれない、と微かな希望を持つ。
「取り込んだお前の魔力を辿って、俺から会いに行ってやるよ」
ヴィレンが照れながらそう言うので、ルクレツィアは嬉しくて笑った。
「じゃあな…俺、そろそろ行くわ」
「…またね」
再びベランダの方へと向かうヴィレンを見つめるルクレツィア。さっきとは違う、またねと声を掛ける。
「ヴィレン、私とお友達になってくれない?」
ルクレツィアは勇気を振り絞ってヴィレンに言った。ドキドキ、と緊張で心臓が高鳴っている。ヴィレンは少し目を丸くしてこちらを見た後、すぐに笑顔を浮かべた。
「…お前はさ、自分の気持ちを父親にちゃんと言ってみた方がいいと思う」
「え?」
急に違う話題を振られてルクレツィアは戸惑う。
「ここに一人で居ることが辛いなら、連れて行ってくれって言えば?」
「…そんな我儘は言えないわ…」
ただでさえ自分は役立たずなのに…そんな我儘を言って嫌われたくない。ルクレツィアも認めたくないが分かっているのだ、ディートリヒはきっと自分に興味がないと…。
「我儘くらい言うだろ、親子なら」
しかしヴィレンはルクレツィアの悩みを笑い飛ばし、ごく当然のように言ってのけた。
「俺なんてよく親父と喧嘩してるぞ」
そして得意げになってそう言うものだから、ルクレツィアも思わず笑ってしまった。
「父親に我儘を言え。そしたらお前と友達に…お前をルーシーと呼んでやる」
『ルーシー』、ルクレツィアの愛称だ。この世界に誰一人として、自分を愛称で呼んでくれる人なんていないのに。
「ヴィレン、ありがとう…!」
ルクレツィアが涙目で嬉しそうに笑うと、ヴィレンは頷いて、そして竜の身体になってベランダの向こうへと飛び立って行ったのだった。
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