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⑥ アルが帰ってきません
少しだけ話をすると言っていたアルが帰ってこない。
カフェへ向かってみるが、明かりは完全に消えていた。
書店もシャッターが閉まっていて、二階へ続く階段をタタタッと足音もたてずに登っていった。
「にゃーん」
玄関ドアに向かって何回か鳴くと、しばらくして静かにドアが開き、ヘンリーが顔を出した。
「あれ? ライオネル? どうしたんだよ、こんな時間に」
「にゃあにゃあにゃあにゃあ!」
懸命に訴えるけれど、完全に猫になってしまったライオネルは、ヘンリーと会話が出来ない。
ヘンリーとヘレンは完全な人間だ。獣人同士なら、人間体の時でも種族体の時でも会話は出来るが、人間とは無理だった。
「あー、ごめんな。今のお前の言葉がわからないんだ。……あ、そうだ。ちょっとお隣さんに頼んでみよう。ちょっと来て」
ヘンリーはそう言って手招きをすると、お隣の敷地へと足を踏み入れた。
「ちょっと大きいからびっくりするかもしれないけど、怖くないから大丈夫。とっても頼りになるんだ」
一歩後ろで待機させ呼び鈴を鳴らずと、目の前に現れたのは、真っ黒い毛で全身を覆われたゴリラだった。
「こんばんは、ちょっとこの子の話を聞いてあげてほしいんだけど」
相手は完全にゴリラの姿なので人間と会話は出来ないはずなのに、大きな身体のゴリラはわかったと頷いた。
(付き合いが長いと、簡単な言葉はわかるのかな? ゴリラは知能が高いって言うし)
ライオネルはそう思いながら、頭を下げた。
「にゃんにゃん、にゃーん(こんばんは。ヘンリーの友人でライオネルと言います)」
挨拶をした後に、経緯を簡単に説明したあと、協力を願い出た。
今のライオネルは完全に猫の姿なので、出来ることが限られてしまっている。
「ウッホ。ホッホッ。(事情は分かった。ちょっと待ってて。支度してくる)」
ゴリラはそう言うと家の中へ戻っていった。
程なくして戻って来ると、完全な人間体の姿だった。
「にゃっ?」
驚いた声を上げると、ゴリラは大きく頷いた。
「俺のことはネムと呼んでくれ。俺は、人間体も種族体も自由に変身できるんだ」
それから、ヘンリーとゴリラ獣人のネムの協力も得て、あちこち探し回ったが、見つからない。
そう広い街ではないし、時間もそんなに経っていないから、遠くへは行かないはずだ。
「少し前に風の噂で、ここからは遠いとある国で、獣人が行方不明になる事件が多発していると聞いたことがある。大規模な組織が存在するらしいんだが……」
ネムは顎に手を置いて考え込む。
「まさか……な」
縁起でもない言葉に、ライオネルは言葉を失った。
その誘拐犯が、この街に来ているかもしれないということなのか。
しかも、狙われているのは、アル……?
「その、カフェに来たやつが怪しいな。情報屋に連絡をしてみる。ヘンリーの家で待ってろ。明日の朝には連絡が取れると思うんだが……」
ネムはそう言うと、自分の家へと戻っていった。
ライオネルは言われた通りヘンリーの家に戻ると、落ち着かなくて眠れない一夜を過ごした。
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