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⑦ 猫獣人は希少価値が高いそうです
(……あれ?? どうしたんだろう。身体が動かない……)
レオの家でアイスティーを飲んだところまでは覚えているのに、その後の記憶がない。
自分が完全に猫の姿になっていることから、もう昼間だということは分かった。
そしてこの閉じ込められているだろう空間には覚えがある。レオが病院に連れて行く時に入れた、あのキャリーの中にそっくりだった。
ただ違うのは、さらに身体が何かで拘束されていて、身動きが取れない状態になっていることだった。
「あー、いいもん見つけたから、取引しようぜ。希少だから、きっとみんな欲しがるさ」
ガハハハっという下品な笑い声と、誰かと話す声が聞こえてきた。
この笑い声は、もしかしてレオなのだろうか。
「おうおう。お目覚めかい、猫ちゃん。良いところに連れて行ってやるから、待ってろよ」
そう言いながら近付いてきたのは、レオだったはずの人。
顔は似ているけど、アルの好きだった漆黒の髪ではない。よろよろとした銀髪だった。
「なんでだって顔してるな?……なんてな、おれには猫の表情なんてわかんねーよ。飼ったことないしな」
そう言ってまたガハハハっと笑う。
「お前とはここでお別れだし、最後に教えてやるよ。俺はレオなんてやつじゃねーし、この街のもんでもねぇ。たまたまお前らの話を聞いて、騙してやろうって思ったら、簡単に引っかかるし、ホイホイ付いてくるし。こんな簡単に大金が手に入るなんてな。笑いがとまんねーぜ」
ガハハハっと、何度も下品な笑いを繰り返す。
(レオじゃなかったんだ……。せっかく会えたと思ったのに……)
猫の姿だから、悲しみで涙は出てこないけど、感情がないわけじゃない。
アルは、レオとの大切な思い出を汚されたようで、悲しみでいっぱいになった。
「この世界じゃ、猫獣人って希少種なんだってな。金稼ぎでいろんな世界渡り歩いたけどよ。こんなに簡単に稼げたのは初めてだ。……もう一人猫獣人いただろ? あいつも一緒に連れて行ってやるからさ」
(え? ……ライオネルもってどういう事?)
アルが困惑していると、ドタバタとした足音が近付いてきた。
「アルっ! 大丈夫かっ!?」
「おーっと、それ以上近付くなよ。……こいつがどうなっても良いのか?」
アルの入っているキャリーをむんずと掴み上げると、ぐっと高く持ち上げた。
「この世界じゃ、猫獣人って貴重なんだってな。高く取引できるって聞いてよ、笑いが止まらねえよ」
「アルを返せ!」
「やだね。こいつが心配なら、お前も付いてくれば良い。猫獣人だろ? 一緒に売り払ってやるよ」
ガハハハっと、何度目かの高笑いをした。
こんなに穏やかなこの街で、こんなに下品な悪党に出会うとは思わなかった。
みんな優しくて、とても親切にしてくれて。
街の人達は仲も良くて、協力しあって生きている。
こんな犯罪に手を染めるやつなんて、必要ない。
猫の姿じゃなかったら、啖呵きって、挑んでやるのに……そう思うと、アルは悔しくて仕方がなかった。
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