一話 堕天使

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一話 堕天使

一面、灰色で染まった視界。 それを構成する殆どは、積み重なった崩壊した建物と瓦礫、面影すらない何らかの機械。 簡単に言えば、退廃した街。 昔は栄えていただろう(そう聞いている)が、その賑やかさは一つ残らずグレーの虚無感に吸い込まれている。 音も、光も、人も。 「…酷い有り様だな」 ぽつりと独り言をこぼす。 それは誰にも拾われない、帰る場所もない落とし物のように段々存在感を消していく。 そして、それを誰かが消えるギリギリで拾った。 誰かなんて解りきっている。 「まぁそう言ってやるなよー、(けい)」 「黙れ。うるさい」 「あ?」 「は?何?」 「表出ろテメェ」 「え、面倒くさ」 「相変わらず騒がしいですね貴方達は。御蔭様で退屈しませんよ」 「嫌味は間に合ってるぞ星芹(せり)」 後ろに二つの気配が追加された。それは微妙な距離を保って並んでいる。 俺は前を向いたまま二つの声と会話をする。 「つか、もうシゴト終わったんだろォ?さっさと帰らねェのか」 「では貴方はお先に帰るのはどうでしょうか」 「ボッチで帰れってのかテメェ」 「柊樂(しゅら)も星芹もうるせぇー」 「あ゙ァ゙?」 「慧、貴方も相当では?」 「そんなことねぇだろ、うるせぇのはお前ら二人」 …本当ダルい。 何で此奴らと任務組まされたんだ。不運極まり過ぎて反吐出そう。 「ほら、帰りますよ」 「はいはい」 「帰り何処か寄ってこーぜー」 「どうせ甘味屋だろ」 「どうせって何だ。死にてェか慧」 「いーや?いいけど」 「どっちだよ」 「しばらく二人共黙ってて貰えません?」 三人の影は、音を立てずに薄くなっていく。 * * * __帰還。 自分の所属する組織に到着した。 特に何も思うこともなく、いつも通りエントランスロビーに足を運ぶ。 「ただいま___」 「おかぁぁぁぁぁぁりぃぃぃぃぃ」 「うるさいよ美蝶(あげは)…」 「ひっど!w」 「慧くんひど〜いww」 「ひどぉー」 「ひどい…ねw?」 「酷い四連発やめやめ。心に来る」 帰って早速、仲間の女子四人がお見えになる。 最初叫び声に近い音量で挨拶をしていたのが美蝶。一応俺の相棒。 美蝶の文句の後を次いで酷い連発をしたのが、みもざ、あやめ、華澄(かすみ)。 みもざとあやめは姉妹、みもざと華澄が相棒という関係性だ。 全員少し俺に当たりがキツい気がする。 特に美蝶。少しは自重してほしい。 「まァ慧にはこれくらい喰らわせねえとな…」 「柊樂お前そこら辺の土と同じになりたい?」 「死ぬ通り越して土に還ってんじゃねェかそれ」 「仲が良いですね。二人仲良く土に還ってはいかがでしょうか?」 「お前は黙っとけよサイコパス」 「貴方が黙ったらどうです?」 「どっちも黙れや。うるさい」 背後からの二つの声。それはまた微妙な距離を保っている。 言葉使いが荒いのが柊樂、敬語が星芹。 柊樂と星芹は1歳差の兄弟だ。 対照的な様で、どこか似ている。容姿も、性格も。 性格が悪いのは完全に似ているけど。 今日はこの二人との任務だった。すぐに片付けて帰ってきたけど。 「じゃあ、無事帰還したってことでお祝いでもしますかー?」 美蝶が、ピンクのリボンを蝶の様に舞わせながら言う。 「帰還のお祝いなんて毎回やってたらキリが無くない?」 「慧は釣れないなあ〜」 「まぁやろうよ、お祝いw楽しそうだよ」 「みもざぁ〜」 「パーティっ?」 「大体そんな感じだよ、あやめちゃん」 「それじゃー準備しますかー!!」 「うるさい美蝶」 「だからひーどーいーのー!慧!相棒解散!?」 「すぐ解散持ち込むのやめて」 …このご時世、この組織でこんなに賑やかなのはうちくらいだろう。 ”WOLF”。 暴走AI、”GOAT”の対抗組手段として結成された武装組織。 俺はその集団の幹部にあたる。 白須賀(しらすが)慧、雨の堕天使(スプリンクル)の所持者だ。
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