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モンスターのキグルミを着ているだけですわ
「上手にできたね、たーくん。これってあれじゃない、外国のモーンサーンミッシャルとかいうお城に似ているわね」
「ふふん」
公園の砂場に建てられた水に弱すぎるお城の隣に立つ五才のわたしの息子が得意気に笑っている。
「ねえねえ、たーくん。このへんにお山をつくったら、もっとお城っぽくなりそうじゃない?」
「おー」
ぶんぶんと両腕を振り回して、わたしの息子がプラスチックの小さなスコップで砂山をつくる。
「じょうずじょうず」
「おやま、おやま、すーなやま」
「ねー、たーくんはお山をつくるのが上手ね」
あらあら、夕方を教えてくれるチャイムだわ。
「たーくん、続きはまた明日にしましょう」
「うん」
と、わたしの息子は不満そうにしながらも頷く。
手を繋いで帰る。たーくんの右手はまだまだ小さくてわたしの人差し指と中指しか握れなかった。
名前を呼ばれた方向を見ると、近所のおばあちゃんがいた。若い頃にミスミス・コンテストに優勝したことがあるとか言っていたような。
「おばば」
「こら、たーくん。トキコおばあちゃんと言わないと」
近所のおばあちゃんは心が広いようで、眉間にしわを寄せていたけど……なにも言わないので許してくれたのだろう。
やっぱり神様はいるんだね、悪人にはちゃんと天罰を与えてくださると近所のおばあちゃんが寝ぼけたことを言う。
本当にそんな存在がいるのなら、最初から。
そんなマッチポンプのようなことをしないはずで。
「いたいよ」
「あ、ごめんねごめんね。いたかったよね。たーくんはなんにも悪くないのにね」
「ミツコさん、あんた……さっきから」
「ばいばい。トキコおばあちゃん」
「ミツコさん、あんたも元気を出しなさい。それをタツヒコくんも天国で望んでいるはず」
あのばばあは、なにを言っているんだろうねー。
たーくんはここにいるのに。たーくんは元気で生きているのに、変なことを言わないでほしいわ。
あら、変ね。鏡に砂まみれの女がいるわ。
こわいこわい……小さなスコップまで持って、自分が子供だと思っているのかしら。
「ぴーぽー、ぴーぽー、ぴーぽー」
パトカーね、たーくん。誰かが通報したみたいね。
砂山に木の枝の十字架を突き刺したから?
たーくんは優しかったから、せっかくお墓っぽくしてあげたのに情緒が分からないのね。
「ぴー、ぽーぴー」
遠くで太陽が沈んでいく。山が黒く見える。
今の狂わずにはいられないわたしには……たーくんのお墓にしか見えなかった。
とかなんとか息子の死を悲しむような言動をすれば、わたしの罪は軽くなるのかしら?
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