幸せ推し生活

恋をした

その日も私は、ささくれた人差し指で
缶ビールのプルトップを
引っかけながら、テレビの電源を入れた。
歌番組が映る。
ミュージカル特集で、
いわゆる、歌手ではない人が多く登場していた。
普段私が流し見する、歌番組ではあまり見かけない人達。

その時、ある若手俳優さんに、釘付けになった。

「和哉(かずや)！」

私の亡くなった夫の名前は“佐久　和哉”と言う。
高校の同級生で、地元の成人式で再会し
お互い２７歳の時に結婚。
ずっと「和哉」と呼んできた。
そして私、美月(みつき)は夫から「みー」と呼ばれていた。

テレビには、まだ２０代の頃の
和哉とそっくりな俳優が、歌っている。
声までそっくりで、心臓が痛いくらいに
ドキドキとした。

和哉はたまに、ギターの弾き語りをしていた。
特に好きな曲はビートルズの【イエスタデイ】

私は、和哉の声が特に好き。
歌声だけじゃ無い。
子供たちと一緒に笑う声。
「みー」と私を呼ぶ声、みんなみんな大好き。
だから、私も頭の中には、和哉の声は、
全く消えることは無かった。

その声と容姿がそっくりの人が、テレビの向こうにいる。
私は夢中で録画ボタンを押して、テレビの前で正座して
見続けてた。

そのそっくりな俳優さんは
【小南(こなみ)　日奈汰(ひなた)】　と言うミュージカル俳優、２０歳。
ネットで検索をかけみつけた。
「日奈汰くんって言うんだ」
私は長男の達哉(たつや)よりも年下の人に
恋をした。