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夜明け前のような薄明かりの中で、私はひとり、ぺたんと両膝をついて、ぽつんと座り込んでいた。
曇った日に空を泳げば、こんな景色が見られるだろうか。辺りはただ薄灰色の靄に包まれるばかりで、目につくものは何もない。
私、死ぬのかな。
そんなことを考えた。だって意識を失う前の、医師や看護師の慌てぶり。それに意識を失う直前、私の体はもう指一本も動かせないくらい、空っぽだった。
でも、不思議とそれに対するかなしみは湧いてこなかった。
赤ちゃんは元気に産まれたって言ってた。
なら、まぁいいか。
これからって時に残念だけど、私がいなくともあの子にはあなたがいる。あなたは体が丈夫だし要領がいいから、一人でもきっとあの子を大人になるまで育ててくれるだろう。ちょっと大変だけど、頑張って──
「随分たくさん貯めたねぇ」
そんなことを考えていると、ふと声が聴こえた。懐かしい声。よく知っている声。
はっとして見上げた私の目の前に、母が立っていた。少し屈んで、私を見下ろしている。無地のワンピースにエプロン、見慣れた母の姿。私は驚いて、思わず腰を浮かした。
「よく頑張ったね。これだけ貯めるの、大変だったでしょう」
母は顔を上げて、ぐるりと辺りを見回した。何を見ているんだろう?ここには何もない。薄ぼんやりしたモヤモヤしかないのに。
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