唐突なプロポーズ

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先生が御曹司だという噂は聞いた事があったけど、北沢不動産の御曹司だとは思わなかった。 北沢不動産と言えば国内大手の不動産会社で、その傘下に藤堂建設と肩を並べる北沢建設や、一流ホテルのノースホテルなどがある超一流企業だ。 「藤堂さんと言いましたか。申し訳ないがこういう事情なので桜子さんの事は諦めて下さい」 「はい。もちろんです。では、私は失礼します」 逃げるように藤堂はその場を後にした。 「お父様」 先生が一人、残された父に話しかける。 「はい」 「桜子さんを僕に下さいますね」 「は、はい。もちろん」 「良かった。では、二度と桜子さんに近づかないで頂きたい」 「待って下さい。桜子は大事な娘です。二度と会わないというのは無茶苦茶です」 「では、北沢不動産を敵に回してもいいという事ですね?」 「い、いえ。そのような事は」 「僕の言う事を聞いて下さいますね」 「……はい」 「ありがとうございます。きっと九条建設さんにいい事がありますよ。僕の言う事を聞いてくれている内はね」 父にそう言うと、先生はこちらに戻って来て、「桜子、行こう」と私の手を取った。 私がいた事を知らなかった父は驚いた様子で私を見ていた。 頭の中が混乱する。 先生が北沢不動産の御曹司だったなんて……。しかも、私を下さいって何? 私はまだ結婚に了承していないのに勝手に話を進めるなんて酷い。これじゃあ、もう先生と結婚する以外ないじゃない!
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