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「強盗犯かどうかは別にしても、不審なことは確か。さっき大将との会話で、彼らは駅から歩いてきたと言っていたけど、先ほどからすごい夕立よ。スーツの裾は嫌でも濡れるはず、それなのにあの男の裾は全く濡れていない。ということは、どこか近くのトイレか何かで着替えてきた証拠。
おそらく、ボヤ騒ぎの際に野次馬に紛れ込むときは、そんなに素早くあの場でスーツには着替えられないから、上のジャケットだけ変えるとか、そんなところでしょう。でも逃走中に、ここへ立ち寄るために、さらに疑われにくい恰好・スーツに着替えた。それによく見ると、シャツはよれよれ、スーツの丈も合ってない」
「言われてみれば、確かに……」
阿久津はこっそりと首を伸ばし、男性のスーツの裾に目をやる。
「それに、あの女は共犯の可能性が高い」
「どうしてですか?」
「そもそも、二丁目のあの付近には、高級外車の駐車してあるような家が隣にも、その向かいにもあった。SNSで野次馬が撮った写真にも映ってたでしょう。それなのに、なぜか犯人はあの比較的古くて小さな家を狙った。どうしてだと思う?」
「さ、さあ……」
阿久津は手持ち無沙汰にビールジョッキの取手を握る。
「犯人は知ってたのよ、あのタイミングに、あの家に現金があることを」
「へ?」
「つまり犯人は、それを聞きつけた近所の人か、知り合いの犯行の可能性が高い。それで思い出したのは、さっきの動画に映ってた野次馬の中の一人の女。映っていたでしょう、ボヤが出ているのは向こうの家なのに、逆の方角を気にしている帽子を被った女がね。女が気にしてた方向は、強盗のあった家の方角。きっと、仲間がちゃんとこちらに来るかを確認していたんじゃないかしら」
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