98人が本棚に入れています
本棚に追加
もう一度、スマホで先ほどの動画を出してみる。
「た、確かにみんなとは逆の方向を見てますね」
「それにその足を見て。これはバレリーナの癖。足をバレエの基礎ポジション、一番の向きにして歩く癖が出てる。ガニまたのようにね。お店に入ってきたとき、あの女の足もそうなってた」
「あ……」
「さっき聞いたでしょう。平川さんの娘さんは最近バレエ教室に通い始めたって」
すべてがつながり、血の気がサーッと引くようになる。
「え、じゃあ、バレエ教室の先生があの家に現金があるって情報を仕入れて、強盗に入ったってことですか?」
「おそらく。あの男は実行犯として手を組んだんじゃないかしら」
「な、なんと」
涼しい顔でグラスを傾ける共犯の女性をこっそり見やる。まさか、あの人が。
「ほら、わかったらさっさと警察を」
そうだ、警察……と思いながらスマホをタップし、ふと彼女の方を見る。
「っていうか自分ではかけないんですか?」
「……スマホ、持ってないのよ」
今どきスマホを持っていないとは珍しい。ナンパを断られる時の常套文句に似ているが、仕方ない。今ここでは、自分が110番するしかない。阿久津は、大将に目くばせしてからそっと立ち上がった。
まだ半信半疑だったが、鞍馬黎子というあの探偵の推理と、大きな瞳に途轍もない確信めいたものを感じ、彼女の言う通りに店の外へ出て110番にかける。二十七年間の人生で、警察に電話するなんて初めてだ。妙に緊張して手に汗を握る。
最初のコメントを投稿しよう!