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 もう一度、スマホで先ほどの動画を出してみる。 「た、確かにみんなとは逆の方向を見てますね」 「それにその足を見て。これはバレリーナの癖。足をバレエの基礎ポジション、一番の向きにして歩く癖が出てる。ガニまたのようにね。お店に入ってきたとき、あの女の足もそうなってた」 「あ……」 「さっき聞いたでしょう。平川さんの娘さんは最近バレエ教室に通い始めたって」  すべてがつながり、血の気がサーッと引くようになる。 「え、じゃあ、バレエ教室の先生があの家に現金があるって情報を仕入れて、強盗に入ったってことですか?」 「おそらく。あの男は実行犯として手を組んだんじゃないかしら」 「な、なんと」  涼しい顔でグラスを傾ける共犯の女性をこっそり見やる。まさか、あの人が。 「ほら、わかったらさっさと警察を」  そうだ、警察……と思いながらスマホをタップし、ふと彼女の方を見る。 「っていうか自分ではかけないんですか?」 「……スマホ、持ってないのよ」  今どきスマホを持っていないとは珍しい。ナンパを断られる時の常套文句に似ているが、仕方ない。今ここでは、自分が110番するしかない。阿久津は、大将に目くばせしてからそっと立ち上がった。  まだ半信半疑だったが、鞍馬黎子というあの探偵の推理と、大きな瞳に途轍もない確信めいたものを感じ、彼女の言う通りに店の外へ出て110番にかける。二十七年間の人生で、警察に電話するなんて初めてだ。妙に緊張して手に汗を握る。
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