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「よくあるのよ。もうほんと、みっともない。若い彼女の前で飲みすぎたんじゃないの」
「そう……なんですかね?」
「ああ、もうやだ。だったら私がひっぱたいてでも、家に連れて帰るわ。これに懲りて浮気もしないように。二度とね。悪いけど、一緒に来てくれますか? 私一人じゃ起こせないので」
彼女の剣幕に押されて腕を掴まれる。
「え、あ。はい?!」
黎子さん、もしかしてなんか巻き込まれちゃってます? 黎子さんにそれとなく助けを求めるように言うと、黎子さんは顔色一つ変えずに反対の方向を見ながら《でしょうね》と冷たく言い放った。
「う、嘘……あ、でも二階のお客さんと盛り上がって、混ざって飲んじゃってるのかも」
「今日、二階はまだお客は入ってないよ」
大将がさくっと答える。
「はい、行きましょう」
仕方がないので彼女に言われるがままに、階段を上がりトイレへ向かう。ここのトイレは個室で男女兼用一つだ。数回ノックをするも返事がない。
と、「ちょっと、あなた」と後ろから彼女が切羽詰まった声をあげるので、ドアノブに手を伸ばすとガチャリと扉が開く。
「あれ、開いてるようですね」
様子がおかしい。痺れを切らした彼女が後ろからバンッと大きくドアを放つも、中には誰もいないよう。
「え? いない?」
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