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「どういうことよ」
「でも、確かに二階に上がられましたよね、さっき。二階からは外に通じる出入口はないし。あるのはこのトイレの中の小窓だけ……もしや、神隠し?」
二階にはテーブル席が一組だけ。大の大人が誰にも見えずに隠れられるスペースもない。
「もしかして気が付かないうちに、あの人一階にこっそり降りて、外に出たんじゃないかしら」
「気づかなかったんですかね? すぐ後ろを通るはずですけど」
そう言いながら一階へ降りる。
《どうだった?》
黎子さんが尋ねるので首を振る。
「消えました。神隠しです」
《馬鹿ね、大の大人が消えるわけないでしょう》
「で、でも」
黎子さんの言葉にしどろもどろになっていると、彼女が横に腰をおろし静かに言う。
「会計をあの子に託して、なんてみっともないけど、あの人怖気図いて逃げたのかもしれないわ。きっとそうよ。はあ、なんてみっともないのかしら」
溜息を深くつき、頭をぶんぶんと横に振っている。
「はあ、なんか私もトイレ行きたくなっちゃった。ちょっと失礼」
彼女はそう言って立ち上がると、また二階へ向かう。
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