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「事件ですか、事故ですか」  電話口から無機質な声が応答した。 「えっと」  話し始めると、同時にサイレンを鳴らしたパトカーが店の前で止まる。 「え、そんな早く来るわけ……」  まだ話し途中だ。  ふと路地裏に目をやると酔っ払い同士が喧嘩していて、阿久津の通報とは別に、このパトカーは呼ばれたものらしかった。  パトカーのサイレンがこだまし、まずい――そう思って店の入り口を振り返ったときにはもう遅かった。 「おらあ、場所あけろ。この女がどうなってもいいのか」  居酒屋・あさがやの出入口から出てきた男は、パトカーに気が付き焦ったのか、人質を取っている。人質は先ほど待ち合わせと言って男の隣に座っていたデニムの女性だ。  酔っ払いの喧嘩を止めに入っていた警官一人がこちらに急いで駆けてくる。 「落ち着きなさい! 女性を離しなさい」 「どけえっ」  男がこちらに向かってくるので、あっけにとられ身動きができないまま、道をよける。  が、様子がどこかおかしい。男は突然苦しみ出し、目の前で倒れた。 「……そんな、馬鹿な」  パタリと動きを止め、微動だにしなくなった男に近づくと恐ろしい形相。  思わず腰を抜かして後退りする。 「し、死んだ?」
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