7/7
前へ
/160ページ
次へ
 彼女は画面を眺めながら続ける。 「大学時代、一緒にボランティアをしてて、海岸の清掃だったんです。そこで意気投合して。私は今もボランティアを続けてます。この近所でもそういう活動があるんですよ。少年みたいな人で、私のことをよくからかって、家の中でも隠れて驚かしたり、そういう面白い人だったんですけど、いつの間にか、会社の後輩のあの若い女に心を持っていかれて……」 「うわあああ」  と、突然悲鳴がする。 「どうしたんですか?」  立ち上がり、二階を見上げると、彼女と入れ違いざま、トイレに立った男性が腰を抜かしてドアの前にへたり込んでいる。 「血、血だらけで……」 「え?」  思わず声をあげ、駆けあがる。 「この人……」  浮気をしているというご主人ではないか。 「あなたっ!!」  彼女が大きな声で叫び遺体に駆け寄ろうとするので必死に止める。すぐ後ろの階段を少し下ったところには、浮気相手だというあの若い女性も立っていて、口に手を当て今にも叫びそうなのを息を吞むようにこらえている。    すぐに階段を駆け下り、大将に救急車と警察への通報をお願いする。  黎子さんは赤ワインのグラスから口を離し、こちらを見つめた。  カウンターに両腕をつき、頭を振る。おかしい。  さっき確認した時には彼の姿はどこにもなかった。    一体、どこから現れたというのだろうか――。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

109人が本棚に入れています
本棚に追加