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《あの奥さん、三上冴子、ここへ来てからトイレに何回立ってるのかしら?》  黎子さんが確認したい様子なので、代わりに大将に聞く。大将は覚えていない様子で首を傾げるが、そこへミリちゃんがぴょんっと出てきて答える。 「二回ですよ、阿久津さん。入店してからすぐと、さっき阿久津さんと二人で二階に上がられた直後に行かれたので、二回。私、記憶力いいんで、信用してください」 「あ、ありがと。ちなみにカレンダーって、今月のにしてたよね?」 「当たり前じゃないですか。ちゃんと今日、開店前に確認しましたよ」   黎子さんはまだ考え込んでいる。 《三上冴子と最初にトイレの様子を見に行った時は、遺体はなかったのよね?》 「はい、もちろんなかったです。っていうか、三上勉さん、本当にどこにもいなかったんですよ。トイレは個室一つだし、ここの二階は全然隠れられる感じのスペースないですから」 《それは知ってる。二階見たことあるから、生きてた時。トイレで》 「で、ですよね……」 《ドアはどう開いたの?》 「どうって、普通ですよ。こう。奥さんがすごい剣幕で後ろからバンッと」  阿久津は腕を前に押すようにやる。 《じゃあ、ドアは三上冴子が?》 「まあ正確には僕が前にいてノブに手をかけていて、開いてますね、と話したところで奥さんが後ろから押したって感じでしょうか」 《トイレは内開き。そして、なぜか来月になってたカレンダー。トイレの小窓、トラック……黒のワンピ―ス》  黎子さんがブツブツ言う。 《わかったわ。犯人が》 「え、もう?」 《阿久津。あなたに託すわ、私の推理》    阿久津はごくりと唾を呑み込んだ。
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