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「トイレの内扉にかかったカレンダー。おかしくないですか。今月は七月なのに、このカレンダーはなぜか八月になってます。それは、七月のカレンダーにメッセージを残した犯人が、犯行後にそれを隠すため、七月分を破ってトイレに流して捨てたため。おそらく、カレンダーの七月十日の箇所にこう書いてあったんですよ。例えば『記念日、鎌倉』とかね」  スマホのロック解除のパスコードと、メッセージ画面の背景画像。この二つから記念日と鎌倉を紐づけた推理はビンゴだったようだ。 「……」  三上冴子は押し黙る。 「それで三上勉さんはわかったんです。あなたもこの店にいることを。それでトイレから出るに出られなくなった。そこに追い打ちをかけるように『あなたー』という冴子さんの声。彼はとたんに隠れたはずです。自主的に、トイレの扉の裏側に。きっと、悪戯好きの彼が、昔からそうやって隠れること、あなた知ってたんでしょう」  三上冴子が息を呑むのがわかった。 「あなたは僕とご主人を探しにトイレに行ったとき、彼が扉の裏に隠れていることを知りながら知らんぷりをして扉を閉めた。そして一階に戻ってから、そのすぐ後、あなたはもう一度トイレの中に入り、言い訳をしようとする三上勉さんを刺殺。カレンダーの今月分のページは細かく破ってトイレに流した。返り血を浴びないようにレインコートを着て。全身真っ黒のワンピースも、万が一にも飛んでしまった血を隠すには十分でしょう。レインコートは薄手のものなら、トイレに立つときに、お腹か何かに挟んで持っていけば、ばれないですし。  そして、レインコートは小さく折りたたんで窓の外から投げた。知ってたんですよね、街の清掃ボランティアをしているあなたは、あの裏の工場が不法投棄をしていて、夜間にトラックが一台、あそこから出るのを。そのためにいくつか積み荷がしてあって、すぐ真下に止められているのを。だから、そのトラックめがけて折りたたんだレインコートを投げたんです。証拠を勝手にどこか遠くへ、運んでくれるようにね」
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