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「だけど、そんなのただの推測でしょう? 証拠はあるの?」
あ――そういえば証拠――あったっけ?
情けない表情で黎子さんの方を振り返ると、黎子さんは呆れて早口でまくし立て、三上冴子の足元を指さす。ごまかすように咳払いをする。
「不法投棄のトラックを追跡すればあなたがレインコートに残した何かしらの痕跡は出てくるでしょう。でもそんなことしなくても、その前に決定的な証拠がありますよ」
阿久津は三上冴子の足元に視線を移す。
「な……」
「その足の赤いペディキュアの脇についた赤。目立たないけど色味が違いますよね」
「え?」
「調べればすぐにわかりますよ。それが血痕だということが」
「そ、そんなはずないわ……だって、ちゃんと確かめたのに……ハッ」
三上冴子は脱力したようにがくりとその場に座り込んだ。
「ど、どうして……」
「不自然だったんです。あなた、全体的におしゃれにしているのにアクセサリー類を一切身に着けていない。例えば腕時計も本当はいつもはつけているのでしょう。さっき一瞬左手首に目をやった後にスマホで時間を確認し直していましたし。ところが今日は指輪やネックレス、ブレスレットもピアスもしていない。
それで思ったんです。黒のワンピース同様、万が一返り血を浴びたとき、何かに血痕がつかないようにするため。おそらくトイレの室内でも、あなたはサンダルを安全な場所に脱いで置いて、裸足で犯行を行ったはず。サンダルにつかないように。でも、素足のその箇所には気が付かなかったようですね。爪の色もペディキュアで赤かったから……」
そこまで言うと、三上冴子は笑い出した。悲しげな表情を浮かべて。
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