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「このペディキュアの赤は、主人が昨年の結婚記念日にプレゼントしてくれたものだったんです。赤が好きな私に、絶対似合うからって。そうです、七月十日は私たちの結婚記念日。でも、今年は覚えてなかった。それどころか、その日、あの女と会ってたのよ!
浮気だけじゃない。家のお金をあの人、ギャンブルにつぎ込んで。私に黙って私の会社の同僚や親戚にまでお金を借りようとしてたの。問い詰めたら、俺をダメにしたのはお前だって言った。そういえば、北野さん、でしたっけ?」
「え?」
急に話を振られて不倫相手の北野舞は動揺している。
「あなたの家、資産家だそうね。あの人、あなたからもお金を絞りとる気だったみたいよ」
「そんな……」
「まだ若いから、覚えておくといいわ。愛は簡単に憎しみに変わるってことを。でも私も馬鹿ね。まさか、あの人がくれた赤に、足元をすくわれるなんてね」
一連のやり取りのそばで、赤ワインを飲み進めていた黎子さんが呟く。
《古代ローマではワインを海水で薄めて飲んでていたらしいわ。三上冴子が三上勉にプロポーズを受けた鎌倉の海、殺意のきっかけではなく、鎌倉の海の水が、殺意を薄めてくれたらよかったのにね……》
薄く涙を浮かべた三上冴子は四門刑事に連行されていった。
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