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警官に連れられてきた刑事は、名を四門と名乗ると、けだるい感じで現場を見渡してから、鋭い目つきでこちらを睨みつけた。
どこからどう見ても悪役キャラだな、この人……心の中でそう思わず呟くと、キッと刺すような眼光が飛んでくる。え、もしかして聞こえた……?
怯んでいると、四門刑事は舌打ちしてから続けた。
「はいはい、全員動かないでくださいよ。毒物で窒息死か。お怪我はありませんでしたか」
「え、ええ」人質の女性は答える。
「お名前を教えていただけますか」
「原木詩織です」
「この男はお知り合いで?」
「いえ、違います」
彼女ははっきりと首を振った。
「彼は一人でしたか」
周りの客の視線が一斉に共犯らしき、あの黒いハンドバッグを持った女性の方に向く。
「ち、違う! 私じゃない。私はただ……」
「あなたの名前は?」
「……足立有希です」
「亡くなったあの男性の持ち物からは身分証が出ませんでしたが、男性の名前も教えてもらえますか」
「……」
黙り込み、目を合わせようとしない。
「彼の名前を」
四門刑事が語気を強めてもう一度そう言うと、ようやく顔をあげ弱々しく答えた。
「佐久間……一郎です。でも違う。殺したのは私じゃない。私はただこの男と……!」
「とにかく事情を聞きたいので署までご同行いただけますか」
「だから違うってば!」
足立有希は叫んでいる。
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