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「あの足立有希って女の人が佐久間という男を殺したんですかね。二人は強盗の共犯で、金の分け前をやるのが惜しくなったとか」
黎子さんは阿久津の問いに動じず、手元のビールを飲みながら息を吐くように答えた。
「いえ、男を殺した犯人はおそらく、あの人質の女、原木詩織」
「ええ?!」
思わず大きな声が出ると、四門刑事が睨んでくる。咄嗟に口を手で塞ぎ、黎子さんの隣の席にそっと座った。まるでいたずらがばれた子供のような仕草に黎子さんは呆れ顔を向けながら続ける。
「不思議だと思わない? あの佐久間って男がなぜ彼女を人質に取ったか」
「え? そりゃあ、女性の方が非力で……」
「馬鹿ね。あのとき、入口付近には他にもか弱そうな年配の女性客が複数いた。それなのにどうして、わざわざ入口から一番遠い女性の原木詩織を振り返って引っ張ってまで、外に連れ出したの? 途中には若くて力の強そうな男性客のテーブルもあったし、連れ出す距離が長ければ長いほど、邪魔をされる可能性は高い。走って入口付近の女性を捕まえて、そのまま外に出るほうがよっぽど簡単なはず。それなのにあの男は、わざわざ原木詩織を人質に取った」
黎子さんの言わんとしていることがわかるようでわからない。
「つ、つまり?」
「人質は最初から彼女でなければならない理由があったということ。つまり原木詩織は、あの男にとっての第二の共犯者の可能性が高い」
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