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「第二の共犯者? でも、それだけじゃ」
黎子さんはまっすぐに前を向くと、手元のグラスの水滴を払いながら推理を続ける。
「それに原木詩織は嘘をついている。彼女は人と待ち合わせと言っていたけど、待ち合わせというのは嘘。待ち合わせにしては時間を全然気にしてないし、スマホも見てなかった。大将が、雨で電車が止まってタクシーも混雑、と話をしたとき、そう聞けば普通、待ち合わせ相手がここへ来られるか心配になるはずだろうけど、それでも彼女はスマホを見なかった。待ち合わせを装ったのは、後で早めに切り上げても、相手が来なかったと言って不自然だと思われないため。
次に、警察が佐久間の遺体を調べても盗んだ札束を見つけていないところを見ると、おそらく札束は、足立有希にすでに渡しているはず。つまり、あの黒いハンドバッグの中。でも、佐久間一郎の第二の共犯者が原木詩織で、彼女を人質に取ってそのまま逃走しようとしたところを見ると、佐久間にとっては原木詩織が本命で、足立有希には奪った本当のお金は渡していないはず。
佐久間一郎が足立有希にどこでお金を渡したかは不明だけど、おそらく、あのボヤの現場からここまでの道のどこかでしょう。でも、札束が偽物だと気が付かれては佐久間の計画は水の泡だから、多分、偽物ではないことをここへ来る前に目の前で証明して、油断させてからすり替えた。一度証明してしまえば、外は豪雨だし、途中で開けて確認する暇もない。足立有希は入店してから一度もトイレに立ってないし、しかも彼女のハンドバックは彼の足元側にあった。トイレの中で確認するにも持ち出しにくかったはず」
「ちょ、ちょっと待ってください。混乱してきました」
変な汗が額を流れる。
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