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「偽の札束を足立有希に渡したってことは、本物のお金はどこにあるんですか? 警察も遺体から現金を見つけた様子はないですけど……」
黎子さんはくるっと首を回し、店全体を眺めてから目を静かに閉じた。そうして今度はスッと何かが舞い降りたように目を開いた。
「そうね。本物のお金は、例えばトイレの中で佐久間があの人質の女・原木詩織に引き渡す予定だったのよ。あの狭い個室の中、二人だけにわかる、秘密の場所に隠してね」
「トイレの中?」
「原木詩織が、コの字の一番長い部分、直線の一番奥を空席にし、二番目に座ったのは、トイレで受け取ったお金の入ったバッグを空席の下のフックにかけるため。空席の椅子の上に置いておくと通路を通った誰かに、中身が見えてしまう可能性があるし、隣の至近距離に他の客に座られたら、中身を見られてしまうかもしれないから一つ空席を作ることで防御線を張ったのよ。
おそらく、原木詩織がお金をトイレから受け取ったのを確認したら、佐久間は一服してくる、とかなんとか嘘をついて外に出て、原木詩織と一緒に逃亡する予定だった。でもパトカーの音がして、彼は焦った。そこで人質を取るふりをして逃げるという暴挙に出た」
店の中からは、外で倒れた佐久間一郎の投げ出された両足の先しか見えない。
今の黎子さんの推理が真実だとして、原木詩織は一体どうやって、佐久間一郎を殺したというのだろうか。
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