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通されたのはコの字の一番奥側、二席あるうちの折り返し手前の席。座ると途端に冷気に包まれる。ああ、涼しい。午後八時を過ぎるとはいえ、まだ外は熱帯のような暑さだ。やはり室内は涼し……いや、ちょっと寒すぎるような気も。まあ、暑いよりはいっか。
目の前のお品書きを眺める。今日のおすすめメニューは――季節の刺し盛りに、牛すじ煮込みにとうもろこしの天ぷら、そしてゴーヤチャンプルか。ビールだな。
「とりあえず、生ビールで」
はあ、今日頼んだナチュールワイン、結構有名な銘柄だったと思うけど、全然味も名前も覚えていない。
「生ビール、お待ちどうさま!」
カウンターに置かれたジョッキを受け取る。
「う、うまい……」
やっぱりワインよりこっちだな。そうだ、阿久津。部内一番人気のマドンナ・藤井桜子と二人でご飯に行けたことだけでも、男として大きく前進ではないか。そうだ、そう思うことにしよう。
「振られた?」
突然の声に驚いてジョッキを落としそうになる。
左隣、つまりコの字の一番奥の席に、さっきまで誰もいなかったはずなのに、いつのまにか、淡いブルーのワンピースをまとった女性が座っている。歳は三十五手前くらいだろうか。
陶器のような白い肌に、切りっぱなしの艶やかなボブヘア。口元の小さなほくろが印象的で、この世のものとは思えない美人。
「振られたんでしょ?」
彼女はもう一度そう言うと、手元の特大ジョッキのビールに口をつける。いい飲みっぷり。つい凝視してしまうが、ふと我に返って質問する。
「振られたって……どうしてそれを?」
「顔に書いてあるわ」
「ええっ」
そんなにわかりやすかっただろうか。
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