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 コの字手前の三席、つまり、連れの女性のすぐ斜め右横には日本酒の瓶を抱えてぶっ倒れそうに酔っぱらった年配の男性が、仕切りにくだを巻いている。  カップルの男性の方に、大将がおしぼりを渡しながら尋ねた。 「お足元の悪い中、どうも。駅からの道、雨すごかったんじゃないですか」 「え、ああ、まあ」  男性は小さく答える。  二組のテーブル席のうち、奥側のテーブル席では、日に焼けたガタイの良い若い男性客二人が生ビールを大ジョッキで飲んでいる。もう一組のテーブル席、入口付近で飲んでいた、年配の主婦らしき三人の女性の声が聞こえる。 「この辺で強盗犯が逃げているらしいわよ。二丁目の方だって」 「噂では被害にあったのは平川さんのおうちらしいわよ」 「え、平川さんって、最近娘さんがバレエ教室にも通い始めたとこ? この間、来月は発表会だって張り切ってたわよ。かわいそうに、物騒だわね」  スマホでそれとなく強盗事件のニュースを検索すると、SNSでは現場の動画が何件かあがっているようだった。  犯人は左利きの男、盗まれたのは現金百万円、付近ではボヤもあったらしい。  しばらくして、待ち合わせだというショートヘアのデニムの女性が二階のトイレに立ち、その直後にスーツの男性がトイレに立った。 「はい、お通しの冷ややっこシラスのせです。にしてもすごい雨ですねえ。電車も止まっちゃってるみたいですよ。タクシーも大行列ですかねえ」  ここ三十分ほどの間にゲリラ豪雨のごとく振りだしたらしい。今度はお天気アプリをスクロールしようとしたところで、小さな呟きが聞こえる。 「指……」 「え?」 「スマホ、ちょっといいですか?」  と、ブルーのワンピースを着た隣の彼女に聞かれる。心臓の鼓動が速まるのがわかる。  え、もしかしていきなり連絡先を聞かれてる? 
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