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ドキドキしながら言葉を選んでいると、予想外の言葉が飛び込んでくる。
「110番」
「は?」
「だから、警察を呼んでください」
「はい?」
意味がわからない。これはなんだ、新手の詐欺か?
「あの、警察って……」
「あの男女、逃走中の強盗犯」
「ご、ごお」
「シッ、黙って」
そう言いながら顔を近づけてくるので、またもやドキッとする。何か、試されているのではないか。
「よ、酔ってます?」
「いいから、早く。警察呼んで」
「よ、酔ってますね……すみません大将、この方にお冷を」
こちらの声が聞こえているのかいないのか、大将はニコニコしながらも答えない。
「私が酔っ払うわけないでしょ」
さっき、大ジョッキのビールを豪快に飲んでいたことを思い出す。
だとしても強盗だなんて……「ごっ」と言いかけて小声にする。
「いや、でも、強盗犯ってそんな、へ、変なことに巻き込まないでくださいよお」
冗談半分に笑うが、彼女はいたって真顔で返す。
「あら、ハンムラビ法典にはビールに関する法律がいくつもあって、酒場で犯罪を企てている者がいた場合、見逃したり、匿ったりしたら店主は死罪だったそうよ。あなた、大将を殺す気?」
「え、ハ、ハンムラビって……」
一体、なんの話をしているんだ。
「まあ、実際の法典では女店主に限定されてたみたいだけど」
彼女は生ビールをまたもや流し込む。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。だ、大体あの二人はカップルですよ。ニュースによると、犯人は男で、バイクで逃走したらしいです。今頃検問されてますよ」
「本当にバイクで逃げたと思う?」
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