12.側にいて

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12.側にいて

 黒いパーカー、目の部分だけ開いた黒い鉢巻きのような布。  私のクローゼットの中にあるHarukaの衣装を春陽は鞄に詰める。  明日が生配信の日、春陽は深刻そうにため息をついた。 『なに、どしたの? 今更怖気ついちゃってたり?』 「そりゃ、そうでしょ。緊張するに決まってるよ」  からかった私をジロリと睨んだ春陽は、もう一度鞄の中身を確認してる。 「夏月は、緊張しなかったの?」 『したよ、でも私、生配信はしたことないし』 「ん?」 『うん?』 「どういうこと!? 私、初めてなのに生配信なんだけど!」  さっきよりも更に大きなため息をついて、フラフラ立ち上がるとベッドに突っ伏した。 『代わってあげたいけど、ごめんね』 「全然、そんな気ないくせに」  フンっと壁際に顔、こちら側に背中を向けてわかりやすいくらいヘソを曲げた春陽。 『ありがとう、春陽』 「なにが」 『だから、配信のことや……、ううん、それだけじゃないよ。言えてなかったけど、美織のことも。カナやアヤたちへのことや、ママのことや、マルのことも』 「もうっ、そういうの止めて! 私が好きでやったことだし、夏月が言うとフラグが立つみたいでイヤなの」 『フラグって?』  皆まで言わせるなとばかりに振り返った春陽は、涙目だった。 「大体、アニメなんかだとそう言ったすぐ後で成仏しちゃうじゃない」 『そうなの?』 「そう! 勝手にいなくならないでよね」 『はい?』 「夏月は勝手に私の前に出てきたんだよ? 覚えてる?」  八月八日、私の葬儀が済んだ夜のことを春陽は言ってるんだ。 『あれはさ、あの時は。私、春陽に気づかれるもっと前からいたわけ。ああ、これがきっと成仏する前のこの世の見納めかな、ぐらいに思ってたのに。春陽が悪いんだよね』 「私のせい!?」 『だって、あの時勝手に私のパソコンとかキーボード触ろうとするから!』  勝手に触らないでよ、そう独り言ちたつもりだった。  どうせ聞こえるわけないのに、そう思ったのに、春陽は私の存在に気がついてしまったんだ。  波長が合いすぎるんだよね、私たちはきっと。  好きな食べ物も、性格も違うくせに。  お互いの考えていることが、何となくわかってた。  だって生まれる前からずっと一緒だったんだもん。  誰よりも一番長い付き合いなんだもの。
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