1.最期の夏休み

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 翌日、八月八日の早朝に長野からパパ方のじいちゃん、ばあちゃんがやってきて、昼頃私は荼毘にふされた。  いよいよ、戻る体が消えてしまう。  一応最後に抵抗はしてみたけどね?  今の私が幽体ってやつならば、本体に戻れないだろうか、とか勢いよく突っ込んでみたり、ソロリソロリと入ってみようと試してみたけど無理だった。  私の身体を燃やし立ち上る黒い煙を、何とも言えない気持ちで見上げながら、深い深いため息をつく。  人生ってこんな形であっけなく終焉を迎えることもあるんだね、と灰になってしまった我が身に手を合わせた。  その日の夕方に始まった家族葬には、入学式で一度だけ見た学園長と、うちの担任の姿があった。  お腹の突き出たオジサン二人が、私の遺影に手を合わせ、悲し気に俯いてはいるけれど、何も伝わってこない。  そりゃ、そうだ。  だって私は六月から、あまりクラスにはいなかったし、担任と顔を合わせたのも短い期間でそんな生徒に何の情も沸いてないだろう。  沸くとしたなら『事故死を遂げた不登校気味の自クラスの生徒。担任として何かできることはなかったのか』と責められたらどうしよう、なんてビクビクしてたりしてね?  パパやママの前で、深々と頭を下げる話も数回しかしたことのない担任の心の内に、勝手にアテレコを当てたり。  弔問客として訪れるママヤパパの会社の人たちの顔を、一人一人静かに眺めて、このつまらない時間が過ぎるのを待つ。  春陽は泣き腫らした顔でボンヤリと私と同じように弔問客を見わたしていて、時折キュッと唇を噛みしめている。  春陽の学校はセーラー服なんだよね、似合ってる。  その紺色のスカートを唇を噛むのと同じように、何かを我慢しているみたいにギュッと掴んでいた。  春陽がふと視線を止めた先、そこにいたのは私と同じ制服姿の女の子が椅子に座っていた。  白いブラウスに紺色のネクタイ、水色のギンガムチェックスカート。  見覚えのあるショートボブの横顔が、ひたすらうつむいたまま震えている。 『美織(みおり)……』  隣に座り彼女を覗き込むと、顔をグシャグシャにして嗚咽が漏れないように泣いていた。  親友のその姿に胸の奥が苦しくなる。  小さい声でずっと「ごめんね、ごめんね、夏月」と美織は苦し気に小さな声で私に謝ってる。
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