1.最期の夏休み

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『謝らないでよ、美織はなにもしてないでしょ?』  そう声をかけたところで伝わりっこない。  わかってるけれど美織の涙を止めたくて、声をかける。  だってこの四年間、私の一番側にいたのは美織だったよね。  中一で同じクラスになってから、めちゃくちゃ気の合う友達だったもの。  多分どこか春陽に似ていて一緒にいてホッとできたから、楽しいことも悲しいことも分け合ってこられた。  だけど最近一言も話せなかったもんね、さびしかったよ。  美織のためって思っても、学校で見かける度に話しかけたい気持ちを抑えてるのは辛かったんだ。  最期のメッセージ、私なんて送ってたっけ?  美織からの返事はあったのかすら、覚えていないのが辛い。 『美織、泣かないで』  それでもシクシクと静かに泣き続ける美織の側から、グルリと周囲を見渡した。  家族葬というのは名ばかりで、特に弔問客が来るのを避けているわけではなさそうなのに。  斎場を見回して、私の学校関係者が学園長と担任と親友だけだということに、自虐的な笑いが込み上げる。  私ってば人気ないなあ。  夏休みだし、知らない人もいるかもしれない。  もしかしたら家族葬だから弔問は控えて欲しい、なんて連絡がクラスメイトや校内に流れたのかもしれない。だけど。  私を除く三十四人ものクラスメイトの誰一人が来ないなんて、笑っちゃうんだけど。  確かに私高校生になってから友達がいなかった、ううん、できなかった。  欲しかったけど無理だったんだもん。  どうでもいいやって思ってたけど、やっぱり悔しいな、そう思ったら春陽みたいに私も自分のスカートをギュッと握りしめてた。  春陽のあの仕草は、私への弔問客の少なさに悔しがってる、そんな気がしたんだ。  そういえば、スカートを握って気づいたのは、自分が着ているのが制服だということ。  荼毘にふされた時に着ていたからなのかな?  既に葬儀が終わり弔問客が一人、また一人と帰り始めた頃、知っている気配を感じて入り口を見た。
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