1.最期の夏休み

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「マル……」  クラスメイトの丸山(まるやま)太一(たいち)が息を切らして駆け込んできた。  真っすぐに私の遺影を、睨んでいる?  は? なんで睨んでるのよ!  まるで私をぶん殴りにでも来たみたいな顔をして、ズカズカと遺影の前までくると。 「……勝手に、死んでんじゃねえよ」  誰にも聞こえないような声で、はっきりそう呟いていた。 『いや、私だって死にたくて死んだんじゃないし』  抗議はマルに届くわけなどない。  白い花に囲まれた私の遺影は、妙に晴れやかな顔をして笑っている。  今年の四月、高校進学の朝にママが撮ってくれたもの。  この日は私にとって晴れの入学式で期待に胸を弾ませていたから、こんなに笑顔だったのだ。  じっと私の遺影を睨んだ後で、マルは潤んだ目をグシグシと拭っている。  よく見れば、その目は充血していて鼻の頭も真っ赤だった。  ズキン、ズキンと胸が痛むのを感じる。   『らしくないってば、マルが泣くなんて』  白に近い金髪、ピアスに色素の薄い茶色い目をしたマル。  学園内で悪目立ちするのと同じくらい、この端正な顔立ちは人気を集めていた。  パッと見は、冷たそうで近寄りがたいのに本当は誰よりも熱くて温かくて。  私がかろうじて学校に行けていたのは、マルとの放課後があったからだってこと、口に出しては言わなかったけどわかっていただろうか?  あの日、マルが私を見つけてくれなければ、この数か月のバカみたいに楽しい日々はきっとなかったよね。 「オマエ、死にたかったのかよ?」  マルのつぶやきに必死に首を横に振る。  違うって、事故だって、多分!  確証なんかないけど、私生きる気マンマンだったんだよ?  マルと出会ってからはずっとさ。  だけど、そんな私の願いも虚しくマルは深いため息をつき、これまた見たこともないほどガッカリとしたように背中を丸めてから、何かに気づいたように顔を上げる。  それは春陽の存在だった。  マルのことを私の友達なのかと観察するように見ている春陽の視線に気づいたのだろう。  私の遺影から春陽へと目線をうつし、息が止まってしまったかのように目を丸くし立ちすくむ。  そんなマルに対し、春陽がペコリと頭を下げてからようやく何かを思い出したように、また私の遺影と春陽を見比べていた。  だから、言ったでしょ?  離れて暮らす双子の姉がいるんだって。  一卵性だから顔がソックリだということや、性格やその他諸々は全然違うんだってことも。
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