12.側にいて

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「……もしも、逆だったら」 『え?』 「私の姿も夏月には視えた、そんな気がしない?」 『かも、しれないね』  たった一年と三ヶ月、会わなかっただけのこと。  それでも、繋がってる、永遠に切れることのない糸みたいに。  私たちは、二分の一だから――。  今度生まれ変わっても、私は春陽と……。 『私が次に、生まれ変わったとして』 「ああ、いいの、いいの。夏月は私が死ぬまで側にいてくれて」 『はあ? ちょっと、いつ消えるかわかんないんだから、冗談だと思わずに聞いてくれない?』 「やだよ、だって」  もう何度も見た春陽の膨れた顔が、涙で濡れていく。 「やなんだよ、夏月がいなくなるのは! 私はまたいつか夏月と双子で生まれたいの。そして今度は一緒に長生きしようよ。そのために、私が死ぬまで夏月は側にいてよ、離れないで! 先に生まれ変わるとか絶対許さないし! だって、あの時、私、もう二度と夏月に会えないって絶望したんだよ! もう会えないんだって、泣く泣く諦めようとしたのに」  わかってる、わかってるよ。  必死に私の亡骸に話しかけ、家に帰ろうと起こそうとしていた春陽のあの日の泣き顔が今この瞬間に重なる。 「私は夏月に取り残されてしまった、そう思うぐらい孤独になった気分で。それなのに、呑気に『元気?』なんて出てきて、私の事いっぱい振り回して。我侭言うし、お願いばっかりだし、怒るし、笑うし。全然幽霊らしくないじゃん。生きてる時のまんまじゃん……、なのに、触れられない!」  伸びてきた春陽の右の手のひらが私の身体をすり抜ける。 「中途半端に出てきて、こんな悲しい気もちにさせてるの、わかってるの?」 『……わかってるよ、だって』  春陽を抱きしめようと手を伸ばしても、永遠に触れられない世界線が現実としてある。  ふざけ合って笑い合って、背中を叩こうとしてハッとした。  泣いてる春陽の肩を抱こうとして、悔しさで拳を握る。 「わかってるなら、責任持って側にいて。これからも私の妹として」 『待って待って、成仏するのは許されないってこと?』 「うん、許さない。勝手に成仏したら、夏月のスマホ全部読むから」 『最悪……、スマホを人質に取るとかズルイわ』  まるで鏡合わせのように泣き笑う春陽に右の手のひらを伸ばす。  春陽はそれに、左の手のひらを重ねるようにした。 「だから、明日、生配信が終わっても消えないで。だってまだ未練はいっぱいあるでしょ?」 『ある、のかなあ?』 「あるある、まだマルさんに告白だってしてないじゃん」 『す、するわけないじゃん! つうか、好きとかじゃないし! 相棒だって言ってんじゃん、なんなのよ、ったく』  背中を向けた私に春陽はいつまでも笑う。  マルのことなんか、私は何とも……。  ただ少しだけ、明日マルと一緒に配信するのが私じゃないってことが寂しいと思う気持ちの正体に、気づかないままでいたいんだ。
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