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「やば、春陽ちゃん! 見て、これ!」
白いフード付きパーカース姿のマルが春陽に両手を見せる。
「マルさん、同じくです、ホラ」
春陽もまたマルに自分の両手を見せた。
ああ、同じだね、二人の指先がガタガタと震えていることに気づき、噴き出す私。
「俺よか、震えてんじゃん」
クスッと笑ったマルが、春陽の手を両手で包んだ。
不意打ちを食らった春陽が手を引っ込めることもできず凍り付くように固まり目を丸くしている。
「大丈夫、大丈夫、俺たちはきっとうまくやれる」
「うっ、自信ないです」
「俺もないけど、大丈夫! きっと、夏月が見守ってくれてるから」
マルの笑顔に春陽が頬を紅潮させて何度も頷く。
「絶対、見てますから! 夏月、側にいますから!」
今度は春陽がマルの手を強く強く握り返して興奮したように伝えたら、マルはニッと笑って。
「うん、いるね! 春陽ちゃんといると、いつも夏月を感じる。多分、あれだ。今頃『あんた達、震えてる暇あんの? 生配信まで時間ないよ』って急かしてるかも」
『そうだね、時間ないと思うけど?』
春陽が私の声に弾かれるように、マルから離れて。
「そうです! 練習です、練習! まだ、私うまく弾けない箇所があるんで自主練します!」
「だ、だね! 俺も練習しとこっと」
真っ赤な顔で自分の所定の位置についた春陽が、キーボードの練習を始めると、マルはその後ろでギターを弾き始める。
今日は髪をひとまとめにした春陽のうなじが、赤く染まっている。
マルもそれをぼんやりと口を開けて呆けたように見上げてる。
ったく、だらしない顔してるなあ。
春陽、気づいてる? マルの気持ちに。
ひどい話だよね、私と同じ顔してるのに、なにが違うんだか。
あ、そっか、性格だった。
私に告白しろなんて言うくらいだから、春陽はまだ自分の気持ちには気づいてないかもしれないけど。
食べ物の好みや、性格は違っても、幼稚園の初恋の子も、小学校で好きだった男の子も、私たち一緒だったよね。
つまりは、そういうこと。
きっと、いずれ春陽は自分の気持ちに気づいて、私に遠慮して蓋をするのだろう。
『マルはさ、最初こんなんじゃなかったんだわ』
春陽の隣に立つと、私に対し聞こえてるよの目配せをしている。
『今でこそ派手な身なりだし陽キャ気取ってるけど、全然よ。クラスでもいてもいなくてもわかんないようなヤツで。だから、あの日声をかけられてビックリしたんだ。なんで、コイツ私の正体に気づいたんだ? つうか、この人喋れるんだ! って』
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