12.側にいて

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*** 「絶対、絶対、Harukaだろ? 俺、マジでHarukaのファンなんだって! ずっと聞いてて、ホラ!」  そう言って私にスマホの中に入っている動画リストを見せてくる。  オーマイガー、マジでHaruka、つまり私だらけじゃないか。  あの日うっかり屋上で歌ってから、やたらとつき纏ってくる、誰だっけ?   あ、留年した人、マルなんとかセンパイ。 「マルセンパイ、それ誰です?」 「ああ、マルでいいって。これは君でしょ、Harukaさん、えっと夏月さん。つうか、なんでHarukaなの? Natsukiでもかっこいいじゃん」  うるさいなあ、本名で配信してたらバレちゃうかもしれないでしょうよ。  親にも姉にもバレてないのに。 「とにかく私じゃないんで、マルセンパイの勘違いなんで」 「じゃあ、じゃあ、じゃあ、勘違いでもいいからさ。俺と一度カラオケ行かない?」 「イヤ! どうしてほぼ初対面の人と」 「クラスメイトじゃん! まあ、夏月さん、ほぼクラスにいないけど」  私がそういう存在だってことは知ってたわけだ。  でも、あの日自分だってサボってたじゃん。  だからきっとこの人も私と同じ部類、なんじゃないの? 「聞きたいんだ。この曲。歌ってくんないかな?」 「はあ?」  マルセンパイが動画を再生して私に見せる。  それは、カバー曲で、家族のことを歌っているものだった。 「夏月さんがHarukaじゃないって言うなら、それでもいいけど。なんで俺がこんなにHarukaのファンになったのか、聴いてくれない?」    これは、きっと長くなりそうだ。 「いえ、知りたくないから大丈夫です」 「俺さ、Harukaの曲聴いてから、また学校に来られたんだよね」 「え?」 「学校なんか辞めようかな、ってずっと引き籠ってて」  マルセンパイは、小学校からずっとバスケをやっていて高一でもレギュラーになれたほど優秀な選手だったらしい。  うちの高校は部活動が盛んだし、バスケ部だって強豪だったはずだから、相当うまかったんだろう。 「俺バカだから、一日ぐらい練習サボってもいいかなって。クラスの何人かでプールで遊んだ帰り道にさ」  一瞬、何が起きたかわからなかったそうだ。  マルさんはプールの帰り道、ブレーキとアクセル踏み間違え歩道に乗り上げた車に跳ね飛ばされたらしい。  そうして足を怪我し選手生命が立たれ、自暴自棄になって引き籠っていたと――。 「でもさ、ある日動画サイトでHarukaを知ったんだ、すげえいい声してて。で、この曲聴いた時涙止まんなくてさ。ああ、俺そういえば家族にもずっと心配かけてんじゃんって。だから、Harukaにあったら、俺を再生させてくれてありがとうって伝える気だったんだ」  へへっと笑ったマルセンパイがなんだかボヤけて見えてるぞ、マズイ。 「それから俺もさ、ギターを初めた。Harukaにいつか歌って欲しいな、なんて曲作ってたり……って、あれ? 夏月さん?」  ダメだって、こういうの本当に弱いんだってば。 「良かったじゃん」  声に出したらボロボロ涙が落ちてきた。  私の声で前向きになった人が目の前にいる事実が嬉しくて。  ああ、この人が聴いてくれて本当に良かったなって……。   ***
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