1 山奥で焚火

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「そう。世事(せじ)にうとい人間としては質問があるんです。……皆、なんで魔族を滅ぼそうとしているんですか?」 「そりゃ。全滅させなかったら第二、第三の魔王がでてきちまうだろ」 「うーん、ボクらだって人間同士で争うじゃないですかあ。魔族といえど、女子供まで退治しちゃうことはないと思うんですよね」  (うれ)いに満ちた目をし、長髪を掻きあげる。髪の毛がかかったのか、肩に乗る鳥がクーッと不満げに鳴いた。 「いや、でも魔族は人を食べちゃうしね」  勇者も反論をする。しかし遊び人は、人差し指を左右に揺らした。 「チッチッチッ、それは昔の話。現在は魔族の研究も進んでいます。山にいたオークを捕らえて一緒に生活している人がいるそうですが、人間の食事で事足りるそうですよ」 「ほう。遊び人はレベルが上がると賢者になると聞くが、あんた勉強家だな」 「いやいやあ。戦闘しないで逃げ回ってばかりで。転々としているから情報だけは知っているんですよぉ。とにかく、残った魔族が降参するならば共存の道もあるんじゃないですかね。共に生きて──法を破るならば、人間と同じく罰して反省させればいい。遊び人ってはみ出し者なんでね。受け入れられない側のことも考えちゃうんだなあ」  勇者は遊び人の話にひどく感心した。生きるか死ぬかの毎日で、モンスター側のことなど考えもしなかったからだ。一考の価値ありだなと思う、が。 「しかし僕らは魔王と、最後の四天王だけは倒さなければならない」 「そうだな。魔王は巨悪の権化(ごんげ)だし、四天王は賢く、騙し討ちをいとわない卑怯な奴だと聞くぞ」  遊び人はそれを聞いて、(おび)えるように身をすくめた。 「なかなか手ごわそうですね。ご武運を祈っていますよ。さて、お腹も満ちた。本当にテントに寝かせてもらっていいんですか?」 「もちろんだ。いつも勇者と俺で寝ているテントだから、狭いかもしれんが。荷物を外にだせば寝られなくはないだろう」 「朝になったら君たちに、僧侶から神の加護の魔法をかけてもらおう。帰り道にモンスターに出会わずにすむ。安全に家まで帰れる。……どうかしたか? 変な顔をして」  顔色を変えた遊び人は、胸を叩いた。「に、肉が詰まって。水、水」と(かす)れた声でうめく。  勇者から差しだされたカップをもらい、ぐびぐび飲み干す。 「あー、びっくり。助かりました。そうだ。自分は武力アップの魔法などかけられませんが笛ができます。一曲だけ吹きましょう」  そういって遊び人は懐から、銀色の横笛を取りだした。すうっと息を吸い込み、吹口に唇をあてる。細長い指がながれるように胴部管を伝っていく。  星のまたたく夜空に、伸びやかで美しい音が広がっていった。繰り返される旋律は耳を傾ける者を、音の粒子で包みこむよう。  すると、勇者と戦士がガクッと首をたらし、前のめりになった。今にも前方へ倒れこみそうだ。体を揺らす戦士から、大きなイビキが聞こえる。  遊び人がテントを指さすと、鳥がそちらに向かい、幕をあげた。笛をくるりと回してぶつぶつと何やら唱える。  勇者と戦士の体が浮かぶ。しばらく空中に浮かんだ彼らの姿を見つめ、笛を動かした。その動きに合わせて、二人の体はテント内に滑りこんだ。  「帰ろうか?」と遊び人は鳥に語りかけた。
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