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管理課の火山対策官まで昇りつめた蓮は、頭に白いものが混ざり始めていた。
気象庁という組織は、体育会系も、キャリアも、昇進のチャンスが平等に与えられる。
国家公務員の中には、未だに薩摩・長州出身を重んじるとか、帝都大出身が幹部をほぼ独占するとかという省庁もあるから、健全だと言える。
反面、予報が外れたとか、災害が目の前で起きているのに対応が遅いとやり玉に上がりやすい面もある。
生活と生命に直結するシビアさがあるから、開かれた組織なのかも知れない。
霧幻山の約束の丘を出たとき、スマホに着信があった。
「凛、どうした。
一応仕事中なんだが」
「うちを出るとき、お守りを忘れて行ったでしょう。
ちょっと、ひっかかっていて、かけてみたのよ」
中腹にある、幻影の祠で拾った石を、お守り袋に収めていつも持ち歩いていた。
外出するときにはいつもカバンやポケットに忍ばせていたのだが、リビングのテーブルに置いたままだったらしい。
「そんなことか ───」
「それと、今日は50歳の誕生日でしょう、おめでとう」
「半世紀も生きると、めでたくもあり、めでたくもなしだな」
休暇を利用して霧幻山へ、若い頃から何度も登っていた。
結婚してからも独りでぼんやりとする時間を、ここで過ごすのが恒例行事だった。
現代人のライフスタイルとしては、ごく普通の感覚である。
家庭があっても一人旅を楽しむ。
そんな余裕が、人生に広がりをもたらすのだ。
幻影の祠の裏手に、時の迷宮と呼ぶ不思議な白い岩の洞窟がある。
入ると時空が歪むとされているのだが、気味が悪くて入ろうという気にはならなかった。
足を止めてぼんやりと輝く岩を眺めていた時である。
ドドーン、と爆発音がしたかと思うと、足元がツイストするように大きく揺れ始めた。
「ねえ、どうしたの。
大きな音がしたけど大丈夫?」
妻の上ずった声がスマホから漏れ出る。
「何だ、あれは。
まずい、逃げろ!」
次の瞬間、轟音と共に通話が途絶えた。
「あなた! 蓮! 蓮 ───」
声が大きくなり、外に飛び出して霧幻山の方角に視線をやると、空が暗くなっている。
臨時ニュースが伝えた。
霧幻山が前触れなく噴火したと ───
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