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 50回目の誕生日を迎えた蓮は、霧幻山を(はる)か遠くに眺めていた。  そう、今日は噴火するはずだった日である。  半径100キロ圏内に厳戒態勢を敷き、住民を避難させてしまったから、後で散々叩かれるだろうな、などと思いため息をついた。  凜とは突然上司がセッティングしてきた見合いで結婚した。  お互いの人生を尊重し合い、一定の距離感を持っている生活が居心地良い。  昔の友人からは、 「霧島みたいな生活が待っているなら、俺も結婚しようかな」  などと言われる。  あまりピンとこないのだが、幸せとはこういうものかも知れない。  子どもは上が女の子で、下が男の子である。  ヤンチャ盛りではあるが、勉強も手伝いもきちんとするところは、生真面目な両親に似たのだろう。  一旦国家公務員宿舎へ戻り、リビングで缶ビールを一本開けた。 「ニュースになってるわね。  今日噴火するはずだって、気象庁が言い張ったんだって」 「つまり、俺がデマを流したわけさ」  3つ下の凜は、子供服にレースを付ける作業をしながらちらりと視線をよこした。  インターネットで注文を受けて、オリジナルの服をオーダーメイドで作って売っているのだ。 「元はと言えば、君が噴火すると言ったんだぞ」  何を言っているのか分からない、という顔をして妻が手を止めてこちらを見た。 「またあの話?」  そう、結婚前に歳を取った妻が現れたことを何度か話題にしていた。 「信じないかも知れないけど、本当にあったとしか言いようがないよ」  彼女は肩をすくめてミシンの方へ向き直った。 「俺さ、フランスにでも行ってこようかな」  あからさまにフンと鼻を鳴らして妻が言った。 「今日のあなたって変よね。  でも、ちょっと安心したわ」  早速フランス行きの航空券を押さえ、ガイドブックを読み始めた。  明日出勤したら、誰から電話がかかってくるだろう、誰から順番に謝ったらいいだろう、などと半分考えながら、心はヨーロッパへ飛んでいたのだった。 了 この物語はフィクションです
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