つづきさん。

1/6
前へ
/6ページ
次へ

つづきさん。

 どうすればいいかわからない。どうするのが正解なのか想像もつかない。  怖いのもそうだけれど、私の予想通りだったらこれはあまりにも気の毒な話。だから、とりあえず相談に乗ってくれると嬉しい。  始まりは、私がまだ小学生だった時のことだ。  この居酒屋で、同窓会に来てるあなたには説明するまでもないとは思うけど、私達が暮らしていたA町は非常にのんびりした地域だった。  電車がないわけじゃない。  ただ、駅がとても小さいもので、路線が一つしか通ってなくて、電車の本数も県内では少ない方だったように思う。駅の周辺は発展していたけれど、駅から少し離れると田んぼと畑が広がっているような、そんな地域だった。  あなたも私と同じ小学校に通っていたわけだから、同じように思っていたかもしれない。治安もよくてのんびりしたのどかな良い町だったけれど、一つだけ嫌なことがあったのだ。それは、うちの町だけの問題ではなくて、日本中どこでも起こり得る話であったのだけれど。  そう、それは空き家問題。  特に、学校に行く途中や駅に行く途中に三軒くらい空き家があって、私はあれだけがどうしても嫌だった。ボロボロの木造平屋。今にも壊れそうで、万が一近くを通っている時地震でも起きたらどうしようと思っていたのだ。  特にそのうちの一軒は道路にせり出していて、フェンスで囲われているとはいえものすごく通行の妨げになっていた。なんで大人はああいうのを放置しているんだろう、持ち主に撤去してもらわないんだろうと思っていたものである。  大人になってから、あれはどうやら“誰があの家を相続したかわからなくなってしまってるせいで、壊すに壊せない”みたいな状態だったと知った。昔はいい加減なことがたくさんあったらしい。お正月に久しぶりにこっちに戻ってきたら、あの空き家の殆どはまだそのままになっていた。一体、何十年放置するつもりなんだろうか。  まあ、それはさておき。  そういう、一部いい加減なところとか、景観問題とかはあったけれど、そういうのを抜きにすれば私はあの町が大好きで――それはあなたも同じだったんじゃないだろうか。  小学校の時もそう。私達の、四年三組はすごくいいクラスだったと思う。まあ、仲良しが多くなかったら、こんな同窓会なんて開催されていないのだろうし。  それで、今日あなたに話しておきたいのは、“つづきさん”のこと。  うん、そう。今日電車で遅刻してる、“都築幸代(つづきさちよ)”さんのこと。  ああ、うん――やっぱり他の人にも聞いて貰った方がいいか。今来てる人はちょっと私の前に集まってくれないだろうか。  都築さんが会場に来たら、もうこの話はできないだろうから。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加