つづきさん。

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 *** 「つ、都築幸代です、よろしくおねがい、し、します!」  彼女が転校してきたのは、二学期が始まったその日のことだった。ちょっと古ぼけたTシャツを着ていて(大昔のキャラクターが描かれたものだった)、おかっぱ頭で赤いスカートで、正直いって私は“なんか花子さんっぽい”なんて思ってしまったのである。  その頃、トイレの花子さん、をモチーフにした昔のアニメが再放送されていたからだ。トイレにいるおばけといえば、おかっぱ頭に赤いスカートの女の子というイメージだったのである。  名前もなんだかちょっと昔の人っぽい。今で言うシワシワネーム、なんて呼んだら怒られそうだけれど。  そんな彼女は九月なんて時期に転校してきたせいか、とても緊張している様子だった。黒板の前で、もじもじと足をすりあわせていたのをよく覚えている。 「都築さんかあ」  そんな時、真っ先に声を上げるのはムードメーカーの大地くんだった。 「困ったなあ、おれ、難しい漢字書けへんねん。習字やるとすーぐ真っ黒になってまうしー。都築って字がちょっとめんどくさいわあ」 「え、え?あ、あの、ごめん……?」 「うんうん、せやから、下の名前で呼んでもええ?さちよちゃん、の方がずっと呼びやすいし、書きやすいわ!」  最初から下の名前でちゃん付け。普通の人ならハードルが高いと思うところだろうが、大地くんならそれもアリかと思わせる空気があったのも確かだ。  それに、実は一番最初の呼び名というのは重要なのである。最初に付き合い始めた時に苗字呼びしてしまうと、なんだかそのままずるずると苗字呼びが継続してしまうなんてあるあるなのである。可能なら、はじめからアダ名とか下の名前で呼ばせて貰った方がいい。数年間の学生生活で、私もそれは学んでいたことだった。  そう、だからこそ、大地くんは気を使ってくれたのだろう。  イケメンで、かつ関西弁(人と仲良くするために作ってるエセ関西弁だそうだが)で、いつもニコニコしていた大地くん。彼にフレンドリーに話しかけられて嫌な気持ちになる女の子はそうそういなかったはずだ。  実際、彼女にも気遣いは伝わったのだろう。頬をちょっと赤くして、都築さんは頷いたのだった。 「う、うん。いいよ」 「よっしゃ!よろしくなあ、さちよちゃん!一緒に楽しくやろうな!」  大地くんが認めたならば、きっとその子はいいこだし、みんなも仲良くなれるはず。なんとなく、そういう空気があったのは覚えているだろうか。実際、私もそう思ったものだ。
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