つづきさん。

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 で、似たようなことは都築さんもやってしまっていたのだ。彼女の場合は先生をどうこう呼ぶのではなくて。 「ただいまあ……あっ」  これだ。  登校してきた時、教室のスライドドアを開けながらついつい言ってしまうのである。これを何回も繰り返したのだ。  ただいま、というのは家に帰ってくる時に言う言葉であるはず。本来、学校に来た直後ならば“おはよう”が正解のはずだが。 「あ、あー……や、やっちゃった」 「あははははははは、さっちゃんドジっこー!」 「ここは都築さんの家じゃなくて、学校だよー。おっはよう!」 「お、おはよ……うう、ついやっちゃうなあ……」  彼女は顔を真っ赤にしながら、ランドセルをロッカーに押し込んでいた。 「ほんと、癖ついちゃってる。教室のドア、うちのドアと似てるから、つい」 「そうなんだ?」 「うん。うちのドア、引き戸なの」  引き戸。  今時の家には珍しいな?なんて思ったものである。もちろんこれは私が小学生四年生の時の話で今から約十年前なわけだが、それでも平成の時代の話だ。少なくともマンションで入口が引き戸であることはそうそうないだろう。 「建付け悪いから、早く直したいってお母さん言ってた。おうち、ボロだから」  はあ、と彼女はため息交じりに言う。 「この間やってた、トトロのメイちゃんの家くらいボロいんだよ。いくら、お祖父ちゃんから受け継いだ家だからって、直せばいいのにー」 「うわ、そりゃ苦労するわ」 「あのあのあのあの、ご、ゴキは出ませんか……」 「出ないはずがないです、ハイ」 「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!」  男子の一人が大袈裟に悲鳴を上げる。一か月も過ぎれば都築さんもウチのクラスのノリがわかってきたようで、か弱い少女のような悲鳴を上げる男子の後頭部に下敷きでツッコミを入れるくらいにはなっていた。 「お母さんがゴキ捕まえるの得意だから、今度虫かごに入れて持ってきてあげよっかあ?」 「いらねええええええですうううううううううううう!」 「あはははははははははははははっ」  まあこんなかんじ。  彼女も私達のクラスに馴染んでくれているようで嬉しい。純粋に、私もそう思っていたのだった。
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