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そう、これだけなら、楽しい楽しい思い出話で終わる。みんなも知っているくらいの、ささやかなお話。
でも、これには続きがある。むしろ、ここからが本番。
そんな普通の女の子だった彼女の正体を、きっと私だけが知ってしまっているのだ。
――ん?あれって……。
その日、私は学校帰りに駅チカの本屋に行く用事があって、いつもと違う道を通っていたのだ。
その時たまたま、赤いランドセルに赤いスカート、黒いかっぱ頭の少女を見かけることになったのだった。都築さんだ。彼女は家に帰る途中のようだった。
彼女がどこに住んでいるのか、私は知らない。家に遊びに行ったこともない。これくらいの頃はもう、連絡網とかで住所を配ることもなくなっていた時代である(昔はフッツーにクラス全員に電話番号と住所をプリントして配っていたらしいが)。トトロのメイちゃん家くらいの古い家、に住んでいると言っていたので興味はあった。そんな大きくて古い家に心当たりがなかったからだ。
ゆえに、興味本位だった。彼女の後ろをこっそりついていって、家を突きとめてやろうと思ったのである。彼女と一緒に学校を出ることはあったが、いつも道が反対なので学校前で別れてしまい、家の近くにも行ったことがなかったのだ。
――どこ行くんだろ。駅の方だけど……。
私が尾行していることに、都築さんは全然気づいていないようだった。駅の商店街がある方へ、いつものようにゆっくりとした足取りで向かっていく。こっちの方に、そんな古い日本家屋なんてあっただろうか。そう首を傾げていた、その時だ。
――え。
彼女が足を止めたのは――ボロボロの、古い一軒家だった。
その家の前で、彼女ははっきりと口にしたのである。
「ただいまー」
そして、家の軒先を潜り、建付けの悪い引き戸をガラガラと開けて中に入っていった。私は茫然として、慌ててその家の前に駆け寄る。
間違いない。“都築”という、あんまり見かけない苗字の表札が出ている。でも、いやしかし、この家は。
――メイちゃんの家、どころじゃない……!
傾いた屋根。
罅割れた木造の壁。
庭に大量に投げ捨てられた空き缶と、いつからそこにあるのかもわからない錆びだらけで歪んだ自転車。
庭に生い茂った雑草に、割れた窓ガラス。
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