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そう、もうここまで書けば分かるだろう。その家は、古くてボロい、のではない。誰が、どう見ても廃屋だったのだ。この話をする冒頭で私が語った、“撤去してもらえず、道を塞いでいて迷惑な廃屋”の一つだったのである。
「そんな、馬鹿な……」
私は恐る恐る中を覗き込んだ。囲われたフェンスには、行政が貼り付けたのか“危険、入るな。ゴミのポイ捨て禁止”の看板が掲げられている。
中は真っ暗で、当然電気がついている様子なんてない。そして、帰ってきたはずの都築さんの姿はどこにも、ない。
人が“ただいま”なんて言って入るような家では断じてなくて。
「おい、ちょっと、駄目だよ君!」
「!?」
突然、後ろから声をかけられた。ぎょっとして振り向けば、そこにはおじさんのお巡りさんの姿が。
駅前には交番があり、この廃屋周辺は危ないので見張っていることが多いことも知っていた。多分、今回も私が中に入ろうとしているように見えたので止めたのだろう。
「そこに入っちゃいけないよ。崩れるかもしれないから、危ないんだ」
「ご、ごめんなさい。入ろうとしたわけじゃなくて、その」
きっと信じて貰えない。だから私は、遠まわしに言う。
「その、ここ、人住んでないんですよね?」
私の言葉に彼は、“住んでるように見える?”と肩をすくめた。
「私がこの町の交番勤務になってからもう三十年くらいは過ぎるけど……その時にはもうあったんだよね、この家。ずーっと放置されてるらしい。早く撤去してもらいたいんだけどねえ。昔、都築さんっていうご一家が無理心中されて、そのまんまほっとかれてるって話で……そのせいで時々変なオカルトマニアが来ちゃって困ってるんだよ」
もう、みんなにも分かったと思う。
都築さんの、妙に古い名前と恰好。
前の学校でいじめられていた時、なんて呼ばれていたのか。
そして、“ただいま”の意味。
そうそう、彼女、未だにスマホ持ってなくて、LINEとかメールで連絡できなかったと聞いている。それも、つまりそういうこと、なんじゃないだろうか。なんで葉書は着いて、しかもちゃんと返事が来るのかなんてわからないけど、でも。
今日、彼女はこれから、この居酒屋に来ることになっている。
もし彼女がまだ気づいていないのなら、私達はどうするのが正解なんだろうか。
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