第12話 日記

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第12話 日記

—1—  半田と空雅の遺体はスーツ姿の男が運んで行った。  俺は空雅が半田に撃たれる寸前に開けた机の引き出しの中をぼーっと見ていた。   祥平は廊下に出て見張り的なことをしていた。正直同じチームではないから、いつ祥平に撃たれてもおかしくはない。  しかし、今の祥平から敵意のようなものは感じられなかった。 「洋一、何やってんだよ。早く行くぞ」  祥平が廊下から顔を覗かせる。 「あー、悪い。ちょっと待ってくれ」  半田の机の中を漁っていたら1冊のノートが出てきた。  見た目はどこにでもあるような普通のノートだ。  しかし、中身は違った。 「日記?」 「なんだ? 何かあったのか?」  祥平が職員室に入ってきた。 「いや、ノートにさ。日記が書いてあったんだよ」 「日記なんて別に珍しい物じゃないだろ」  祥平の言う通り日記は珍しい物ではない。日々の記録として書いている人は結構いるだろう。  だが、このノートは殺人犯の半田のもので、日付は選別ゲームが始まる前から、始まってからも続いていた。  半田は継続して毎日日記を書いていたのだ。  選別ゲームが始まった日の付近のページをめくって読んでいく。 【9月10日。クラスのみんなのチームワークで文化祭の準備が無事に終了。空雅くん、洋一くんが中心となり、クラスを1つにまとめていた。2人がリーダーになってくれてよかった。当日成功するように手伝いを頑張る】 【9月11日。文化祭大成功! 焼きそばも射的もお客さんがいっぱい来てくれて盛り上がっていた。文化祭を通してみんなが少し成長したように思える。いい思い出になった。政府からの電話。選別ゲームの対象に1年4組が選ばれた。何かの間違いであってほしい】 【9月12日。何も知らないみんなが登校してきた。政府の人間が学校に入り、他の人間は立ち入ることができなくなってしまった。私もみんなと同じだ。正直どうすればいいのかわからない。混乱】 【9月13日。やってしまった。昨日から手の震えが止まらない。しかし、こんな姿をみんなの前で見せる訳にはいかない。1番落ち着いていなくてはならないのは私だ。山積みになった問題。心のケア、寝床、食料。数え切れない】  そこから半田の日記の文字が少しづつ荒くなっていき、不安や恐怖について書かれることが多くなった。 【9月16日。何者かが学校の外で乱射していたがすぐに政府に鎮圧された。政府には勝てない。逆らったら最後だ。怖い。いつ終わるんだ。いつまで続ければいい? みんなの顔にも疲労が見えてきた。誰かがこのゲームを終わらせなくては。気付かれないように早く終わらせる。冷静に、いつもと変わりなく】 【9月17日。夢に綾と鈴が出てきた。夢の中で逃げても逃げてもどこまでも追いかけてきて最後に銃で撃たれて殺された。夢の中のはずなのに痛みを感じた。笑いながら撃ってきた2人が怖かった。汗が止まらない。2人も殺したんだ。もう後には戻れない。特別ルールが出されて、みんなも動き出したみたいだ。騒がしい。私も動こう。なんでこんなことをしなくてはならないだ。これからゲームは、過激になっていくと予想される。その前にみんなを。糞が糞が糞が。私は悪魔になる】  日記は、ついさっきのことまで書かれていた。  俺たちがここに来るまでの間、半田は日記を書いていたのだろうか。  それ以降ノートには何も書かれていなかった。  ノートを閉じて机の中に戻した。 「行くぞ」 「あぁ」  職員室を出て下駄箱に向かった。  俺は蓮たちが待っているプールに戻ることにした。 「祥平、俺は外に行くけど」 「そうか。俺はこっちだから」  祥平は、右手を胸ぐらいの高さまで上げてこちらを見ずに歩いて行った。 「あっ、洋一」  外に向かって進ませようとした足を止める。 「なんだよ」 「次会ったら容赦なく殺すからそれだけは覚えとけ」  廊下を見てみるが祥平の姿はもうなかった。 「あー、そーかい」  見えない祥平にそう言ってプールに戻った。  プールの入り口には、蓮が立っていた。 「洋一! 大丈夫だった?」 「ん? あー大丈夫だよ」 「ならよかったよ。みんな更衣室の中にいるから話はそこで聞かせて」 「わかった」  女子更衣室の中に入ると髪が乾ききっていないみんながいた。 「洋一くん、蓮くんから聞いたんだけど怪我とかない?」  志保が心配そうな顔で俺の頭から足まで、まじまじと見ている。 「俺は大丈夫だよ。でもちょっと色々あってな」 「メールに先生の名前があったけど、それに空雅くんのも」 「うん。2人は死んだよ」  俺は包み隠さず職員室での出来事をみんなに話した。  半田が綾と鈴、結衣を殺していた犯人だったこと。その半田に空雅が撃たれたこと。俺が空雅を撃ったこと。半田が残した日記のこと。全部を話した。 「それに立て続けに酷な話だけど、これから特別ルールが他にもどんどん出されて、いよいよ他のチームと正面から戦わなくちゃならないかもしれない。みんなに戦う覚悟があるかは、さっき聞いたからわかってるんだけど、一応その時がそこまで迫ってる」 「洋一くん、大丈夫だよ。私、戦える」 「ありすも」 「私も」  真緒と蓮も頷いた。 「俺もみんなを守る為に戦う」  2度目の確認が済んだとき、スマホが鳴った。  画面をスライドさせメールを開く。
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