第13話 空メール

1/1
前へ
/25ページ
次へ

第13話 空メール

—1—  メールが表示された。 【                  】  しかし、本文には何も書かれていなかった。  いわゆる空メールというやつだ。 「なにか書いてあった?」 「いいや、真っ白だよ」  蓮にも空メールが届いていた。 「志保は?」 「私も何も書かれてないよ。ほらっ」  志保のスマホのメール画面を見せられたが、俺や蓮と同じで何も書かれていなかった。  メールを送っているであろう政府関係者の誤送信だろうか。  それともこのメールにも何か意味が隠されているのか?  考えても何もわからなかった。  スマホで時間を確認すると5時を過ぎていた。  雨が降っているということもあって暗くなるのが早い。  まだAチームは特別ルールを達成できていない。  このままだとAチームの誰かが脱落することになる。リーダーである空雅が死んで混乱しているのであろう。 —2—  洋一と下駄箱で別れた祥平はCチームのメンバーが待つ2階の隅の教室に向かっていた。  ドアを開き中に入る。 「あっ、祥平くんおかえり」  教室には海沙と琴美と朱莉の3人がいた。  3人は身を寄せ合って固まっていた。 「ただいま。加奈子はどうした?」 「加奈子ちゃんは自分の銃で頭を。ごめんなさい。止められなくて」 「そうか。いや、海沙は謝らなくていいんだ。誰が悪いとかはないんだから。悪いのは死んだ公彦だ」  祥平は溜息をついて椅子に座った。 「俺がいない間、変わったことはなかったか」 「特には何も。あっ、でも武くんと葵ちゃんが一緒に出て行ったきり戻ってこないの」 「出る時に何か言ってたか?」  海沙が首を横に振った。  祥平が舌打ちをして、武に電話をかけた。  しかし、繋がることはなかった。葵にかけても同じだった。 「あいつら」  葵と武がいなくなったことで、祥平率いるCチームは実質4人になった。 「祥平くん、次の作戦は何かあるの?」  祥平は人差し指で机を一定のリズムで叩く。  しばらく眉間にしわを寄せて唸っていたが、作戦を思いついたのかリズムを刻んでいた指が止まった。 「俺の弾は残り1発。チームは海沙、琴美、朱莉と俺の4人。いなくなった武と葵は当てにしないとして、他のチームに攻め込むとしても戦力差が大きいからなー。状況が変わるまでここで待機だな。明日になれば新しい特別ルールが出るはずだ」 「りょーかい」  教室内の4人のスマホが一斉に鳴った。 【              】 「?? 空メール。そっちは?」 「私たちも空メールだったよ」 「怪しいな。恐らく何かがある」 「えっ?」 「まだわからないけどそんな感じがする。勘ってやつだ」  祥平が窓の外を見るとAチームの数人が歩いていた。  キョロキョロと周りを見ながら歩いている。手にはもちろん銃が握られていた。 「まあ、そうだろうな。時間が無いもんな」  Aチームは校舎の後ろの方に曲がって行った。 「ちょっとトイレ行ってくるね!」  海沙が立ち上がった。 「気を付けろよ」 「うん!」  教室から海沙が出て行った。  海沙がいなくなり教室での会話は一切無くなり一気に静かになった。 —3—  俺たちはあれから交代でプールサイドの隅から監視を続け、いつ起こるかわからない襲撃に備えていた。  何回かAチームの人が通ったけれど気づかれることはなく、全員がプールを素通りしていった。  まさか、更衣室に隠れているなんて誰も思わないのだろう。  それでもここに隠れていられるのも時間の問題だ。  Aチームがあれだけ探し回って誰も見つけられないとなれば、しらみつぶしに探し回るだろう。  そうなる前にここから移動しなくてはならない。 「どこか別の場所に移動しよう」 「今、動くと危ないんじゃない? 暗くて誰か近づいてきても見えないよ」  芽以がそう言った。  雨は弱まり、空には薄っすらと月が出ていた。雲に隠れてほぼ見えないが少しだけ見える。 「確かにそうだけど、ここもそろそろ危ないと思う」 「うーん、ありすも移動した方がいいと思うな」 「まぁ、それもそうか。ここじゃあ逃げ場ないもんね」  ありすにも移動した方がいいと言われて芽以が納得してくれた。 「で、洋一くんどこに移動するの?」 「部室とかどうかな?」 「部室か、遠いけどそうするか?」  蓮がゆっくりと立ち上がり、お尻についた砂を手ではたき落とした。 「わかった。行こ!」  俺たちはほぼ1日隠れていたプールを後にして部室に向かうことにした。  電気が付いていない校舎の影を進む。場所によっては電気が付いているところもあった。  いつどこから誰が出てくるかもわからないので感覚を研ぎ澄ませる。  足音は極力出さないようにして会話もしない。ジェスチャーだけで部室に向かって歩いた。  グラウンドに出ると、グラウンドを照らす照明がついていた。  これでは、部室に辿り着く前に誰かに見つかってしまう可能性が高い。 「まいったな。今までは付いてなかったんだけどな」  選別ゲームが始まってから毎日のように校舎を巡回していたが、夜にグラウンドの照明がついていたことはなかった。  きっとAチームが付けたのだろう。 「どこかの教室にでも隠れるしかなさそうだな」 「学校の中は危ないと思うよ」  蓮が校舎を見る。 「でも、体育館はAチームが何人かいると思うし、ここは論外だろ。それかまたプールに戻るかだな」 「裏山は?」 「裏山は雨でぬかるんでると思うよ」  志保が裏山を提案したが、蓮が雨の影響で地面がぬかるんでいると指摘した。 「いたぞ!! こっちだ!!」  Aチームの涼太が大声を出して仲間を呼んだ。  そして、涼太は銃をこちらに向けたまま走ってきた。 「やばい。いったんプールまで逃げよう!」  体育館の時と同じように女子を先に走らせて俺と蓮がその後を追った。 「あいつ地味に足速いな。追いつかれるぞ」  追いつかれるからといって無駄に発砲する訳にもいかない。蓮はあと1発しか弾が残っていない。  一方、俺は空雅から渡された銃が4発残っている。  校舎の脇を走りプールを目指す。  その間、涼太との距離が縮まり、仕方なく俺が涼太に向かって1発撃った。  だが、走っていることと銃を使うのが初心者なこともあり当たらなかった。 「誰か—! 洋一たちがいたぞ!」  涼太の叫び声を聞きつけて何人かが出てきて涼太の後ろを走っていた。  涼太たちを振り切らないとプールに逃げた所で全員撃たれて殺されてしまう。 「洋一くん、私も撃つよ」  真緒が涼太の方に向けて銃を撃った。  素早く銃をスライドさせもう1度撃つ。 「きゃー!」  頭の奥にまで響く甲高い声が校舎に反射する。  真緒が撃った弾丸が誰かに命中したみたいだ。 「気をつけろ。撃ってきたぞ」  涼太が止まったことで、涼太の後ろを走っていた数人が涼太の横に並んだ。  俺と蓮、真緒も立ち止まり涼太の方を向く。  志保たちの姿はないから無事にプールに向かったはずだ。  お互い1歩も動かず睨み合っている。 「洋一! お前たちの誰かが殺されてくれないと俺らの誰かが死ぬんだよ。わかってるだろ」 「わかってるよ。だからといって殺されるわけにはいかない」  真緒が再び銃をスライドさせる。  そして、涼太に銃口を向けた。 「てめぇ、真緒。お前も海斗がいるあの世に送ってやろうか!」  真緒が引き金を引いたが涼太には当たらなかった。  反対に涼太が銃口を真緒に向けた。 「真緒! 下がれ!」  俺の声に反応して真緒が姿勢を低くして後ろに走って行く。  それを見て涼太が銃を向けたまま真緒を追う。  だが、涼太の動きを読んでいた俺と蓮が涼太を抑えに入った。  涼太の力は強く、俺と蓮の2人がかりでも抑えるのがやっとだった。  しかし、Aチームの奴らがそれを黙ってみているはずがなく、俺と蓮に銃を向ける。  慌てて涼太を突き放し、Aチームから距離をとる。  Aチームと攻防を繰り広げていると、真緒が逃げた方から銃声が鳴った。続けざまに2発だ。 「真緒!」  真緒が逃げた方に急いで向かう。  向かっている途中でスマホが振動した。それを無視して走る。  真緒は曲がり角のところにいた。そこを真っすぐ行けばプールがある。  涼太たちも俺と蓮の後を追ってきた。  真緒の口に手をかざしたが、既に息をしていなかった。 【庄司真緒、脱落。Bチーム残り5人。Aチーム、特別ルール達成】 「あんたたちやるならさっさとやりなさいよ。もうちょっとで逃げられるところだったんだから」  俺たちの死角から葵が出てきた。 「葵、お前!」 「なによそんなに怒って。仕方ないでしょ、こっちだって命が懸かってるんだから。それにこのゲームは弱肉強食。真緒より私の方が強かったってだけの話よ」  葵は不気味に笑っていた。 「涼太、何突っ立てるの! 行くわよ」 「葵、今までどこにいたんだよ?」 「そんなことは後で話すわ」  涼太とAチーム数人は葵のところに移動した。  俺は、海斗が死ぬ直前に真緒のことを頼むと言われていた。  しかし、守ってやることができなかった。海斗の最後の想いを、約束を。 「くそっ!」 「洋一」  葵に銃を向けた。  真緒を殺した葵が憎い。  それと同じくらい真緒を守れなかった自分が許せない。  蓮は、俺のことを見つめていた。 「全く、できるだけ隠そうと思ってたんだけど、あんたも出てきな」  物陰から武が現れた。 「武、銃だけでいいよ。洋一、あなたをここで殺しても面白くないから今回は見逃してあげるわ! せいぜいこのゲームを楽しみなさい」 「おい! 待て、葵!」  引き金を引こうと手に力を入れかけた時、俺の手に拳銃はなかった。  武が俺の拳銃を撃ったのだ。  俺の銃は左に大きく飛んでいった。武は俺の銃だけを正確に狙ったのだ。 「こんなことって」  蓮が驚き、口を開けている。  文化祭の射的で武が凄い上手いのは知っていたけど、実弾でここまで正確に撃ってくるとは思わなかった。  武は何も言わずに葵の元に走って行った。  なんで、Cチームの武がAチームの葵と一緒にいたのかはわからないが、戦ったら勝てる気が1ミリもしない。  俺と蓮は重い足取りでプールに向かった。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加