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「夏山はてっきり瑞希のことが好きだと思ってたんだけど」
好き? 詩織が?
まさか、そんなことあるわけがない。
たとえ多少の好意があったとしても、それは恋じゃなくて友達のそれだ。
恋なんて面倒なだけだし、割り切った関係で十分だ。
こんな自分のことを好きになってくれる人なんていなくていい、幸せになる権利も資格も自分にはない。
8年前からずっとそう思って、そう言い聞かせるようにして今までを生きてきたんだ。
「そんなこと言われてもね、違うし」
「そうは見えないけど」
「言われたことないし。まあ言われても困るけど」
「相変わらず冷めてんなー」
「興味ないから」
「ふうん。まあいいけど」
まだ納得してない眼差しを向けられるけど、違うものは違うんだから仕方ない。
「んで? 夏山のことじゃないなら、なにをそんなに気にしてんの?」
楓は行儀悪くテーブルに肘をつき、箸を瑞希のほうへ向けて聞いてくる。
自分自身いつもと違う自覚はあったけど、その反面どこかで認めたくなかった。
そんな特別な感情なんて、自分には必要のないものだったし持たないつもりだったから。
意識してそうしてきたのに、なぜか彼女にだけは心が動いて、まるで息を吹き返したみたいな感覚になる。
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