初めての鼓動

11/15
前へ
/26ページ
次へ
どれくらい佇んでいたのか、ハッと気付いた時にはもう時刻は7時を過ぎた頃だった。 痛みはいまだに弱まることはなく、ズキズキと執拗に鈍痛は続いていた。 そんなことなど知らないと言うように、カラスがうるさく鳴いている。 カァ…カァ…という特有の甲高い鳴き声が鬱陶しく、うざく思った。 「っ、うわぁああんっ…!」 その時、すぐ目の前を子犬を連れた小学生くらいの男の子が横切り、少し離れたところで石につまづいて転び、激しく泣いた。 あまり深くはなさそうだけど、その膝小僧からは痛々しい血が流れていた。 どうすればいいのか迷う。 子供に駆け寄って声をかけてあげたいし、そうするべきだと思うのに、変なふうに思われたりしたら困る。 知っている子なら簡単にできることでも、それがまったく知らない他人の子だと躊躇う。 かと言ってこのまま見ているだけでなにもしないのも、どこか居心地が悪い。 「大丈夫っ!?」 瑞希の側を誰かが通りすぎていき、泣いている男の子に慌てて駆け寄った。 香水とは違う甘い匂いがふわりと流れて、これ以上ないほどに鼻先を刺激する。 たったそれだけのことで鼓動が跳ね、痛いほどに心臓を大きく鳴らした。 他の女が振り撒く香水の匂いを感じてもそれだけで、心が動いたことはないのに。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加