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どれくらい佇んでいたのか、ハッと気付いた時にはもう時刻は7時を過ぎた頃だった。
痛みはいまだに弱まることはなく、ズキズキと執拗に鈍痛は続いていた。
そんなことなど知らないと言うように、カラスがうるさく鳴いている。
カァ…カァ…という特有の甲高い鳴き声が鬱陶しく、うざく思った。
「っ、うわぁああんっ…!」
その時、すぐ目の前を子犬を連れた小学生くらいの男の子が横切り、少し離れたところで石につまづいて転び、激しく泣いた。
あまり深くはなさそうだけど、その膝小僧からは痛々しい血が流れていた。
どうすればいいのか迷う。
子供に駆け寄って声をかけてあげたいし、そうするべきだと思うのに、変なふうに思われたりしたら困る。
知っている子なら簡単にできることでも、それがまったく知らない他人の子だと躊躇う。
かと言ってこのまま見ているだけでなにもしないのも、どこか居心地が悪い。
「大丈夫っ!?」
瑞希の側を誰かが通りすぎていき、泣いている男の子に慌てて駆け寄った。
香水とは違う甘い匂いがふわりと流れて、これ以上ないほどに鼻先を刺激する。
たったそれだけのことで鼓動が跳ね、痛いほどに心臓を大きく鳴らした。
他の女が振り撒く香水の匂いを感じてもそれだけで、心が動いたことはないのに。
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