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「ってか、詩織には彼氏がいるだろ」
「え? そうなの?」
「名前なんだっけ。ほら、人事部の」
「あぁ、入社ん時から夏山にすっげアプローチしてたヤツ? 河野だっけ?」
「そうそう」
「へえ、付き合ってんだ、あいつら」
楓は意外そうに頷き、定食のエビフライを無造作に口の中に放り込んだ。
言われてみれば確かに、社内で二人が仲良さそうにしてるところは見たことがない。
詩織は公私混同しないし、相手の男もそういう線引きはしっかりしてそうだ。
「……けど、ここだけの話、あいつ下手なんだって」
「あー、アッチの話?」
「そ。詩織が愚痴溢してた」
周りに聞こえないように、小さな声でコソコソとそんな下世話なことを話す。
「いやいや、女友達とそんなことまで話すか? 普通」
違う、のだろうか。
女友達なんて今までほとんどいなくて、乱れた関係の上に成り立つものばかりだ。
詩織とはそういうつもりはなかったのに、結局セフレになってしまっている。
体の関係を持たない女友達はもうずっといなくて、どこからどこまでが友情の範囲内なのか判断できずにいるのも確かだ。
そもそも男と女の友情が成立するのかも不確かで曖昧だ。
それでも、自分にとっての詩織は友達、同期、セフレ以外にはなかった。
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