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「……別になにも」
「あ、そういう嘘言うんだ。友達なのに話してくれないなんて悲しいなー」
「………」
「なに? 他の女のこととか?」
楓に嘘も誤魔化しも通用しないと悟り、瑞希は小さく息を吐き出してからゆっくり話し出した。
もしかしたら、聞いてほしかったのかもしれない。
この気持ちの名前がわからないから教えてほしくて、こんなの初めてのことで、どうすればいいのかわからないから。
誰でもいい、なんでもいい、道しるべのようなものを作ってほしかった。
そしたら、これからどうするべきなのか、そういうものが見えてくると思ったから。
迷子のままなのはスッキリしなくて、他人任せだとしても見出してほしかった。
はっきりとした答えをくれなくても、意見だけでもいいから。
「ちょっと気になる人がいてさ。って言っても、名前もなにも全然知らないんだけど」
「へ? なにそれ?」
「実はこの前――」
そして、このあいだのことを一部始終話した。
楓は興味深そうに目を輝かせ、ふんふんと話を聞いてくれていた。
ただの好奇心に過ぎないとしても、自分のためにそうしてくれるだけで嬉しかった。
自分のことを知ろうとしてくれる、その姿勢を見せてくれるだけで。
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